巻の十 霧隠才蔵その四
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
しかし本能寺の変でその信長が倒れた、そのことによってだ。
「果たしてどの家に雇ってもらうか、戦があるならと思っていますが」
「どうした家に雇われたいでしょうな」
「それは勿論それがしをずっと雇ってくれて」
虚無僧は幸村にまずはこう答えた。
「人を忘れぬ家です」
「人をですか」
「それがしこれまで人を人と思わぬ者も多く見てきました」
戦国の世だ、そうして生きている輩も多い。戦の場において他の者を糧にして生きる者もいるということである。
「他の者を平気で切り捨てる者を」
「駒の様に扱う、ですな」
「そうした者には嫌なものを感じていました」
「だからでありますか」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「そうした方には仕えたくありませぬ」
「ですか」
「それがしはです」
さらに言う虚無僧だった。
「駒ではなく人としてそれがしを見たいのです、そう」
「そう、とは」
「貴殿の様な方にお仕えしたいですな」
「拙者にですか」
「その服の紋、六文銭ですな」
虚無僧はここでだった、幸村に顔を向けて言って来た。
「小さいですが確かに」
「お気付きでしたか」
「真田家の家紋、真田家のご次男が旅に出ていると聞きましたが」
「そのこともご存知でしたか」
「それがし地獄耳故」
虚無僧はこのことは笑って述べた。
「聞いておりまする」
「そうでしたか」
「真田幸村殿ですな」
「はい」
その通りだとだ、幸村は虚無僧に答えた。
「如何にも」
「成程、若いながら出来た方と聞いていましたが」
虚無僧はさらに言った。
「聞いていた以上です、それがしをすぐにそこまで見抜かれるとは」
「忍であると」
「はい、そのことも」
出来るというのだ。
「お見事です、そこまでの方なら」
「どうされるか」
「お仕えしたいと思います」
「拙者、そして真田家に」
「はい」
そうだというのだ。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「当家は小さいが」
信濃の一国人に過ぎない、精々十万石のだ。織田家等と比べるとその大きさは比較にならない程小さい。
「禄は少なく、それに」
「裏切りを常にしていると」
「武田、織田と渡り歩き上杉につくやも知れぬ」
「仕える主を次々に替えているからと」
「裏切りの位家と言われている」
このことは本当のことだ、真田家は節操がないと言われている。
それでだ、幸村もこのことを言うのだ。
「評判が悪いが」
「まずそれがしは禄は別にです」
「少なくともよいか」
「女房も子供もなく贅沢にも興味がござらぬ」
「だからか」
「それがし一人が食えるだけの禄ならば充分です」
それで、というのだ。
「ですから」
「禄は少なくともよいか」
「はい、そして真
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ