第3話
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った。
だから、最近は図書館のカウンターの仕事を他の委員に任せて、談笑が可能なブースで付箋やマーカーが花咲く図鑑をせっせと読み漁っていた。このブースは人を観察するには良い場所でもあったので、行き交う人を見てはその人に似合いそうな花を選ぶ訓練をしていた。
「俺に似合う花選んでー」
やわらかだが元気な声がして望海が振り向くと、中等部の三年間でずっと同じクラスだった優大が立っていた。
望海と優大、浩徳は同じ塾に通っている。また、もぎ取り坂を下りていく二人の姿を良く見かけていたし、優大たちも望海が花屋で働いているのを知っていた。だから、お互い久しぶりと言うわけではない。
「あ、花? えっと、松本君に似合うのは―――」
望海は花言葉のかかれた本を開き、ぎこちない手つきでページをめくっている。やっと見つけたようで、微笑みながら優大に見せた。
「このカタバミって花かなあ」
「カ、カタバミ?」
思いもよらない名前に優大は何とも微妙な顔をした。もちろん、本人は顔に出さないようにしていたが、望海には察知されてしまった。
「うん。花言葉は『輝く心』。松本君いつも周りを笑わせているから」
なるほど、まさにその通りである。だてに人間観察をしているわけではない。
「ありがと。機会があったら買いにいくよ」
道端にも咲いているよ、と声をかけることも出来ず、望海は去っていく彼の後ろ姿を見ていた。
そして、『桔梗娘』が自分と同じように優大の背中を見ているのに気付いた。
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