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月に咲く桔梗
第3話
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気がする」


 と小さい声で囁いた。それにつられて浩徳も小さい声になる。


「そりゃあ、高一の頃はいたしな」


「違う違う、もっと前の話」


 舞侑はそういうと、浩徳の机に両手を置いて


「私が知ってるならあんたも知ってるだろうし、何か心当たりある?」


 と、怪訝そうに問いかけた。


「うーん。思いつかんなあ」 


 と浩徳が答えると、彼女は


「あ、そう。なら良かった」


 と話し、「私一限移動だから、じゃあね」と言って教室を後にした。何が良かったのだろうと浩徳は舞侑の背中を見て思った。




 舞侑は女子バドミントン部の部長である。彼女の兄も別の学校ではあるがバドミントン部の主将だったので、そのことを彼女は誇らしく思っていた。現在は七月の初めにある試合、彼女らにとって最後の夏の予選に向けて練習をしている。そういった時期であったから、部全体での士気が高まっていた。


「夏に向けて練習メニュー変えた方がいいかな」


 舞侑は隣でアイスを食べている横山みさきに聞いた。


「別にいいんじゃない。高二の戦力は絶好調だし、高一も選抜すれば団体戦の予選も突破できるっしょ」


「そうかなあ」


「ま、強いて言うなら足りないものを探せばいいんじゃない」


 舞侑はまた考え込んでしまった。


「うーん。今のチームに足りないものって何かなあ」


 これを聞いたみさきは何かひらめいたようで、おもむろに舞侑の方を向いて言った。


「うちらに足りないもの。それは『愛』だよ」


 この発言に対して舞侑は、みさきに付き合ってなんかいられないという顔をして


「何言ってんだ馬鹿」


 と頭を軽く小突いた。ぱちぱちと瞬きをして、みさきが話を続ける。


「あんたこの夏誰ともデートとか行かなくていいの?」


「別にいいよ。そんなもんこれからの人生でいくらでもできるわ」


「はあ……。君は! どうして! 青春の一ページをそう邪険に扱うのか!」


「君と千本ノックしているのが俺の青春だよ」


 舞侑はテレビでよく見かける二枚目俳優の真似をしながら返した。二人は手をたたいて大きく笑った。


「あー、おもしろい。バド部はむしろラケットが彼氏だな。それより、練習メニューだよ!」


 と元気よくみさきが言うと、それよりって、あんたが話を振ってきたんだろ、と心の中でツッコミながら、舞侑も練習ノートを開いた。



 * *



 図書委員会副委員長の岡田望海は、大きなガラス窓のそばで本を読んでいる彼女のことを『桔梗娘』と勝手に名づけていた。


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