第3話
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。久しぶりの解放感に浸っていると、優佳が眉の間にすっかりしわを作って質問してきた。
「その先輩とかたやまちゃんは、どこの道場に通っていたの」
「警察署の道場だけど」
そう答える結月に優佳はやけに冷静な顔をした。身長はどれくらいかとの質問に、たぶんこれくらいと言って結月は右手を頭の上にかざす。大体一七〇センチぐらいだろうか。
「その人と同じ学年に誰かいる?」
「うん。一人だけいるけど―――」
結月はこう答えている最中、優佳が自分を指さしているのに気付いた。
「そいつ、たぶんうちの兄だ」
優佳の答えに口をあんぐりとあけてしまった。信じられない。結月は開いた口を右手で覆った。
「優佳のお兄ちゃんって、ヒロさんだったの!」
周りの生徒が二人を凝視するほど叫んだとき、昼休みの終了五分前を知らせるチャイムが、あたりの空気を震わせた。
ホームルームが長引いていつもより遅い放課後、二人の少女は講堂に向かっていた。
なぜマツさんは剣道部をやめたのか。
なぜマツさんは演劇部を選んだのか。
何としてでも確かめたい。
その一心で歩みを早める結月に、優佳は駆け足でないととてもついていけなかった。
たどり着いた講堂前。開け放たれた重厚な二枚戸の内側から、味わい深い管弦楽器の優しい音色と共に、流れるような歌声が漏れている。
「すごくきれいな歌……」
そうつぶやいた結月は、吸い込まれるようにして中に足を踏み入れる。
驚嘆した。
今度披露する演目の練習中であるのだろうが、そのまま出しても平気なくらい完成度が高かった。一つ一つの動作や歌声に感情が込められている。観客席に座っている部員が、時々演者に向かってダメ出しをしていた。
道場にはない濃密で趣のある空気に包まれ、誰かになぞられたかのように背中がぞっとした。土俵がまるで違うのに、負けた気がした。
これが演劇部か。
そうつぶやいた後、舞台の上から飛んできた、勇ましく優しいあの声が結月の心を引っ掻いた。
* *
浩徳の家はこのご時世には珍しい庭付きの家である。とは言うものの、建てた当時は周囲に空き地や雑木林が多く、土地も広めにとれたのだ。通っていた小学校は一学年あたり一クラスだったのが、途中から二クラスへと変わり、今や四クラスまでに増えているという。それほどの宅地開発が進んでいたので、ささやかな緑の生える公園を除けば、月姫神社のある『わかれの森』くらいしか、もうこの辺に雑木林はない。幼いころからこの町に住んできた浩徳は思い出が消えていくさまに、渡り鳥が然るべき季節に遠くへと飛び去って行くの
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