第3話
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えてしまったのである。中三で大会に優勝し、念願かなって絶望的とまで言われた第一志望に合格し、さらには部活からも熱烈な歓迎を受ける。ここ最近何かに負けたためしがなかった。だから、固く握りしめてくる沙織の手を振りほどいて駆けていった男子剣道部のブースで、お目当ての優大が剣道部をとっくにやめていたという現実を突き付けられた時、意識のヒューズが飛んでしまったのだ。
小学生の時から知っているとは言え、優大は先輩である。ましてや『懲役六年』の生徒であったから校舎も違い、両校舎合わせて二千人以上いる生徒の中から特定の人物を見つけるのはそうそう上手くいかない、というのは十分承知していた。女剣の先輩を頼ろうとしたこともあったが、なにせ女子しかいない部活であるから、練習のたびにからかわれるのかと思うと、どうしても気が進まなかった。時間がたつにつれて、ますます優大との再会の手がかりが失われていった。
ところが、神様は実に気まぐれなお方である。
想像以上の学習進度のせいでたまりにたまったストレスから、結月は悶々とした日々を送っていた。人付き合いでは、運動大好き少女特有の明るさからクラスの女子からの人気も高く、天真爛漫な可愛さもあって男子から言い寄られることも多かった。もちろん、優大のことをあきらめることが出来なかったから素気無く断っていたのだが。
中間テストの認めがたい成績に愕然とし、放心状態で席に座ってた結月に一人の少女が声をかけた。
「かたやまちゃあーん。一緒にご飯食べよー」
両手に購買で買ってきたパンとジュースを持っているのは、同じクラスの高山優佳である。
「いいよー」
よしっとつぶやいて、結月は両手で頬をピシッと叩く。昼食を机に広げながら
「どうせテストの結果、悪かったんでしょ」
と、優佳は意地悪そうに尋ね、前の席の椅子を拝借した。
「いやー、これは墨塗りものだなあ」
「気になる。ちょっとだけ見せて」
「ちょっとだけ」と催促する優佳に結月は
「絶対に嫌だ」
と笑って、まだ未開封の優佳のジュースを取り上げた。
食事の間、二人はたわいのない話に花を咲かせていた。クラスの男子がうざいとか女々しいとか、ドラマに出てくる俳優がかっこいいとか興味ないとか、そんなようなものである。二人に共通した趣味はなかったのだが、優佳の兄が剣道をやっていたらしく、「道着って臭くない?」というマイナーな話題から二人は仲良くなった。
昼食も終わり、結月が弁当箱を唐草模様の風呂敷で包んでいる時、飲み干したジュースのストローを名残惜しそうに噛みながら
「そういえばさ、結月はなんで月姫を選んだの」
と、優佳が問いかけた
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