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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇
25部分:第二十五章
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第二十五章

「これならどうかしら」
「いいと思うわ。どうやら貴女も美を理解するようね」
「美を理解しない人間はそれだけで不幸になっているものよ」
「それはその通りね。美がわかるだけでね」
「幸福にいると言えるわ。さて」
 ここまで話してだった。沙耶香はまた言ってみせたのである。
「これで終わりではないわね」
「血だけではないというのね」
「そうよ。そうではないわね」
「勿論よ。私は他にもあるわ」
 死美人の笑みは余裕に満ちたままである。そうしてであった。
「そう、私は鏡の世界の女王なのよ」
「この世界のね」
「そうよ。主なのよ」
 そうだというのである。
「私はね。それじゃあ」
「また来るのね」
「それが何かも見せてあげるわ」
 その言葉と共にであった。
 既に鏡は全て紅から元に戻っている。その鏡の全てにだ。
 鏡の一つ一つが合わせ鏡になっておりお互いに無数の世界を映し出している。その一つ一つに映し出されている沙耶香と死美人の姿であった。
 その死美人の顔が笑った。妖艶な笑みであった。
 その妖艶な笑みと共にだった。全ての鏡から何かが出て来た。
 それは闇であった。闇そのものを放ってきたのだ。
 闇の衝撃が無数に沙耶香を襲ってだ。そのうえでの言葉であった。
「これはどうかしら」
「闇ね」
「そうよ、闇よ」
 まさにそれだというのである。
「この闇に勝てるのかしら」
「そうね。闇なのね」
「貴女は黒魔術師」
 沙耶香のことをよくわかっている言葉であった。
「だとすれば光は使えるのかしら」
「闇には光」
 沙耶香も死美人に応えて述べる。
「そして黒には白ね」
「どちらも貴女にはないものね」
「そうね」
 死美人のその言葉に応えてであった。
「それは確かにね」
「なら私のものね」
 沙耶香の今の言葉を聞いてだ。死美人の顔がさらに笑ったものになった。
「貴女は闇に勝つことができないのだから」
「さて、それはどうかしら」
 しかしであった。沙耶香は身動き一つせずにだ。こう返してみせたのである。
「闇に勝つことはできないというのは」
「光は出せないというのにかしら」
「確かに光は出せないわ」
 それは言う沙耶香だった。確かにだ。
「それはね」
「ではどうして闇に勝てるのかしら」
「闇に勝てるのは光だけではないわ」
 こう言ってみせるのである。
「そう、他にもあるわ」
「他にもだというのね」
「そうよ」
 言葉は不敵なままである。
「その通りよ」
「光でないとすると」
 死美人はその闇を放つ中で考えを巡らせていた。場は次第に闇の中に覆われていく。そしてその闇の中で己の考えを巡らせていっているのである。
「それは」
「確かに私は光は使わないわ」
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