第三十四話
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迷子になったらこんな所じゃシャレになんないよ」
俺はこの闇夜に明かりなしで来た準備不足を後悔した。ここまでの暗闇とは思っても見なかったんだ。せめて街灯くらいはあるもんだと思ってた。これじゃあ王女は何も見えないだろう。
「心配するな。私にとっては夜の闇のほうがより近しい存在なのだから。視界は遙か彼方まである。お前は何も見えないと思っているようだけど、お前以上に見えているのよ」
「そうなんだ」
当たり前といえば当たり前の事を知らされて思わず納得した。
彼女を見るとその双眸は青白く光っているようにさえ見える。俺だって、片眼だけだけど、この暗闇でも昼間と同様に見えるのだから、当然彼女だって闇夜は闇夜ではないってことだったんだよね。
「了解。……じゃあ、あそこに行きますか」
と、俺は山の麓、今いる場所から数百メートル離れた所に建っている円柱型の4階建ての建物を指さした。
あそこが漆多が待つと電話をしてきた場所。
会員制特別養護老人ホーム「慈しみの郷」。
近づいていくと思ったより新しい立派な建物であることが分かる。山を切り開いて作った平地に4階建ての建物と隣に平屋の建物が何戸か並んでいる。門構えも立派で並木道を歩いて建物にたどり着くような造りになっている。
現在は周囲をフェンスでぐるりと囲まれていて、門はしっかりと閉じられ、チェーンが幾重にもまかれそこに大きな南京錠がはまっている。そして大きな看板が立てかけられている。
【管理者に許可無く立入りを禁止します】と赤文字で書かれている。
しかし、少し迂回するとフェンスの網が何者かによって切断され、ちょうど人一人が入られるようになっているのを見つけた。
俺と王女はそこから中へと入っていく。
敷地の中はしばらくの間、人の手が入っていないようで、かつては綺麗に整備されていたであろう並木道は荒れ果て、木々の枝は伸び放題、石畳の隙間からは雑草が生えだして石畳を持ち上げ、通路をいびつなモノへと変貌させている。
4階建ての建物も経営者が撤退した後は無人となり廃墟巡りの連中や地元の不良達のたまり場になってたりしてたせいか、あちこちの硝子が割られ、壁に落書きもされている。
建物に近づくと俺は電話をかけた。
「もしもし」
と5回目のコールで漆多が出た。
「月人だけど、今建物の玄関に着いた。どこに行けばいいんだ? 」
「ああ、もう来たのか。思ったより早かったな……」
無音のまま、少し間が開く。背後からガサガサ音が聞こえてくる。ノイズか?
「玄関から……自動ドアは壊れていて手で開けられる、入って、エントランスのすぐ左に階段がある。……そこから地下に来てくれ。そこで待っているから」
そしてすぐに切れた。俺の質問を拒否するかのようだ。
「せっ
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