第二百二十一話 肥後の戦その四
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「この森にですな」
「島津の者達がいますな」
「そしてそのうえで」
「我等を狙っていますな」
「うむ、間違いなくな」
信康は正面を見つつ小声で囁く彼等に答えた。
だがそれと共にだ、こうも言ったのだった。
「しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしとは」
「そのことは今は言わぬことじゃ」
平然とした顔での言葉だった。
「森の中に潜みな」
「我等を見ている」
「だからですな」
「気付かれぬことじゃ」
今はというのだ。
「よいな」
「はい、では」
「それでは」
「ここは、ですな」
「あえて」
「気付かぬふりをせよ」
正面を見たまま平然としての言葉だった。
そのうえでだ、こうも言ったのだった。
「伏兵は気付かれぬことじゃ」
「相手にですな」
「気付かれぬからこそよい」
「だからですな」
「ここは我等も気付かぬふりをする」
「それがいいのですな」
「やはり」
平岩と内藤も頷いた、それは他の十六神将達もだった。
あえて気付かぬふりをして森を進んでみせた、徳川の黄色の軍勢は何気なく進んだ。それは後詰も家康もだ。
家康は森を抜けても振り向かずだ、今も己の傍にいて守ってくれている大久保彦左衛門に対して言ったのだった。
「芝居も出来るとはな」
「はい、竹千代様は」
「芝居も難しい」
「ですな、特に当家は」
「三河の田舎者よ」
ここは自嘲めかした言葉だった。
「だからな」
「芝居が不得手と」
「そうじゃ、わしには存外難しい、しかし竹千代はな」
「無事に果たされましたか」
「よいことじゃ」
こう言って満足していた。
「これでよい、後はな」
「はい、後はですな」
「正面の島津の軍勢と戦いじゃ」
そしてというのだ。
「後ろから伏兵が出た時じゃ」
「その時ですな」
「化かしてきた相手には化かし返す」
「そうして勝つ」
「それもまた戦じゃ」
「特に島津家には」
「島津家は化かすのが上手い」
そのことはよく知っていた、家康も。
「それで大友にも龍造寺にも勝って来た」
「その化かす相手に化かす返す」
「それが出来たなら」
信康にだ、それならばというのだ。
「後のわしの跡継ぎじゃな」
「徳川百六十万石のですな」
「任せられるわ、政は既に見た」
「ですな、殿と共に駿河、遠江、三河を無事に治められています」
元服してからだ、三国を家康の跡継ぎとしてよく治めているというのだ。厳しいことを言う大久保の目から見てもだ。
「政は及第です」
「そして戦はどうか」
「ここで決まりますな」
「見たところな」
ここで家康は信康の次の息子達のことを思い言った。
「わしのせがれは竹千代以外は武か文に偏っておる」
「どちらかにですな」
「どちら
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