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ある新米巡査の思い出
ある新米巡査の思い出
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「ご苦労様です!」

「ふむ。
 ご苦労」

 警察署の正面玄関には警察官が二人立っている。
 警察学校を卒業した新米巡査の仕事で、出入りの見張りをしながら人間観察を学ぶ実地研修と言った所だ。
 制服も真新しい彼が、もう一人の新米巡査に声をかける。

「銭形警部か。
 あの人日本に帰っていたんだ」

「見かけない人だけど誰だ?」

 時代は昭和から平成に移りはや。
 新米巡査の返事に声をかける彼は帽子を深くかぶって空を見上げた。

「そうか。
 お前らの世代だともうICPOの銭形警部だよなぁ」

 その言葉にやっと新米巡査もあのトレンチコートの人が誰なのか見当がつく。
 国民的な超大物警察官である彼を。

「ICPO!
 じゃあ、あのインターポールのルパン専属捜査官!!」

 その驚きが面白かったのか、話を振った彼が帽子で目を隠したままおかしそうに笑う。
 だが、その続きは敬意に満ちていた。

「やっと気づいたか。
 日本警察史上立志伝中の人物だよ。
 あの人」

「え?
 ルパンに逃げられているだけの人じゃないのか?」

 新米巡査がそういうのも無理は無い。
 けど、その返事を聞いた彼は帽子で顔を隠したまま肩をすくめてみせる。

「それでまだICPOに留まっている意味を考えろよ。
 あの人は、何度かルパン逮捕しているが、功績はそっちの方じゃないんだよ」

 平和な午後。
 道には車が流れ、人も歩いているが、警察署に駆け込む人はいない。
 日本の治安がそこに集約されている。

「何やったんです?」

「カリオストロ公国の一件は知っているか?」

 その一言に新米巡査がぽんと手を叩く。
 彼でも知っている超重大事件である。

「ああ。
 たしか独立国家が偽札を作っていた一件ですか。
 そういえばあれ、銭形警部の功績でしたね」

「宇宙中継で暴露されたから、表も裏も大騒動。
 おまけに、国連加盟の主権国家の犯罪だからどう裁くかで国際社会は大もめ。
 主犯のカリオストロ伯爵が死亡したからって東西両陣営が強引にごまかした一件だよ。
 最近やっと機密文書が開示されだしたが、あの時の偽札はソ連のアフガン侵攻の軍資金だったらしく、あの一件が東側崩壊の引き金になったとか何とか」

 今ではマルクやフランではなくユーロのご時世である。
 カリオストロ公国はあの一件でも生き残り、ちゃっかりとユーロに加盟して、あの時見つかったローマの街を使った観光地として繁栄していた。

「凄いことをやってのけたんですね」

「お陰で、表も裏もあの人に頭が上がらない人が多いらしい。
 東西京北大学法学部卒業後警視庁に入り、埼玉県警に出向。
 カリオストロの一件
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