32.いつかは猫の恩返し
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うに意識がはっきりとする。どこかに向かいかけていた意識が突然戻った所為か、手元にあったフォークに指がぶつかってカラン、と床に落ちる。
「ティズ?……どうしたのですか、顔色が優れませんが?」
「え……あ、大丈夫だよ。お腹に食べ物が入った所為で眠くなっちゃったかな?」
アニエスの気遣うような目がこちらの顔を覗きこんでいたのに気付き、咄嗟に言い訳する。
長く考え込んでいた気がしていたが、少なくともアニエスの眼には突然の出来事に思えたようだ。
ヘイズさんの方を見ると、おかしそうにこちらを見て微笑んでいた。
「あらあら、こんなにも麗しいレディ二人の前で居眠りだなんて……ふふ、可愛いわね」
「すいません……おかしいなぁ、全然眠い感じはしなかったのに……」
今になって思えば、さっきのは眠りかける前兆だったのかもしれない。一瞬ふらっとして夢を見てしまったのだ。今はヘイズさんにさっきのような異常な魅力は感じない。ティズは床の下に手を伸ばしてフォークを拾いながら、しっかりしなければと自分に活を入れた。
そんな彼の様子を静かに見ていたヘイズ――真の名を『フレイヤ』という――は目を細めて見極める。
(心の弱い部分に触れて魅了しようと思ったけど……寸でのところで踏みとどまった。芯の強い子ね……)
神すら魅了するフレイヤの気を前に踏みとどまるとは、想像以上の意志の強さだ。
しかし「隣り合う魂」は今の魅了にほだされもしなければティズに干渉もしなかった。
魂を支配している訳でも融合している訳でもない。人格にはちょっかいをかけず、ただ彼という存在を世界に繋ぎとめているかのようだった。
(余計に判らなくなったわね……)
輝く二つの魂の謎は、今はまだ解明できそうにない。
アニエスの方は魅了に多少影響は受けていたが、彼女はぐらつきもしなかった。
かなり敬虔なクリスタル教徒のようだし、これ以上のちょっかいは無駄だろう。
昔、気に入ったクリスタル教徒を無理に勧誘しようとした結果、相手が自殺しようとしたことがあった。魅力に負ける自分が許せないから死ぬ――そんなことを本気でするほどに彼女たちは純粋なのだ
その一途さは好きだし、クリスタル教徒の魂は天界には昇らない。
彼女としては珍しく、例外に分類される扱いだ。
そして――アニエスの道具袋の中に、まったく感じたことのない小さな気配が一つ。
今までは小さすぎて見落としていたようだが、これもまたフレイヤの知らない存在だ。
ただ、二人を魅了使用としたことには気付いたのか、さっきから子供っぽい敵意が飛んでくる。
何者かまでは知らないが、面白いのでフレイヤはもっと弄ってみることにした。
「ティズくん、わたくしが食べさせてあげますわ。
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