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逆さの砂時計
遭遇
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いなものか。

「翔べないから?」
「うん。もうずっと遠くまで来ちゃったし、翔べなきゃ戻れない。それに、まだ居るかも知れないから、近寄るのも怖いわ」

 両肩を抱いて、ふるふると震えている。
 よほど怖い思いをしたのか、顔色まで悪くなった。

「泉? に、何が居たのですか?」
「魔王レゾネクト」

 突然飛び出した名前に、木の根元で座っていたベゼドラ共々目を剥く。
 驚きのあまり動かしそうになった手をなんとか堪え、平静を装おう。

「それは、いつ頃の話でしょう?」

 精霊さんは、自らの右手を顎に当ててうつむき。
 しばらく沈黙してから、顔を上げた。

「正確には分からない。とにかく無我夢中で逃げてたから。もう、十何年も前になるのは確かよ。突然現れて、泉の底で眠っていたアリア様を無理矢理起こしてしまったの」
「! アリアが、貴女達の泉に居たのですか!?」
「きゃあっ!」

 あ、しまった。つい大きな声を。
 これだけの体格差があれば、聴こえる音量も人間とは違う筈だ。
 彼女にしてみれば、うるさいどころの話ではないだろう。
 案の定、少しだけ尖った耳を押さえて座り込んでしまった。

「すみません。大丈夫ですか?」

 涙で紅い目を潤ませて、そろそろと私を見上げる。

「きーんってする。いきなり大声出さないで! 呼気で飛ばされちゃう!」
「すみません。……それで、レゾネクトとアリアはどうしたのですか?」

 手首で涙を拭い、ふるふると首を振って、またうつむいた。

「分からない。魔王が来てすぐに吹き飛ばされて、遠目にも見えていたのはわずかな時間だったから。ただ……」
「ただ?」

 一度私を見上げて、またうつむいて。
 これは、言って良いものかどうか、悩んでいるのだろうか?
 少しためらい、一つ頷いてから、私と視線を合わせる。

「アリア様が泉で眠られたのは、ご自身の御力を世界から隠す為だったの。だから、魔王に起こされた時には、ひどく動揺していたわ」
「世界から力を隠す為?」
「泉は……静謐(せいひつ)の泉は、別名『水鏡(みかがみ)の泉』。世界を映し、跳ね返し、内側に抱いたものの力や気配を覆い隠す性質があるの。アリア様はそこで数千年間眠っていて……本当は、この先もずっと眠っていた筈なのに……」

 肩を落として落ち込む精霊さん。
 ベゼドラに目を向けると、彼も何かしら考えているのか。
 地面をじいっと睨みつけている。

 数千年前、隠れるように眠ったアリア。
 レゾネクトによって目覚めたのは、十何年か前。
 ルグレットさんがアリアの記憶を消したのは、数年前。
 ルグレットさんの件に、レゾネクトが関わっていた様子はなかった。
 当時は既に別行動してい
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