暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
遭遇
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 ふわぁ〜りと、白っぽい()()が目の前を横切った。
 ()()は人差し指と親指で摘まんで一口で食べられそうな、小さな光の球。
 右から左へ、なんとなく目で追いかけてみると、微かに明滅している。

「……なんでしょうか、これ」

 そよ風に揺れる木の葉よりも力なく漂う、弱々しい光の球を指し示し。
 自分の左隣で立つベゼドラに尋ねてみる。

「精霊だな」
「精霊?」
「神々に使役されてた万物の魂っつーか、分身っつーか……あああーもう、事あるごとに説明すんの面倒くせえ! 人間以外の野良魂だと思っとけ!」
「あ」

 ベゼドラが、光の球を平手で地面に叩き落とした。
 魂と考えるなら、実体は無い筈なのだけど。

 光の球はベゼドラの靴先に落ちて、ころころと地面を転がり、消えた。

 いや。
 地面に膝を突いて、消えた辺りをよおく観察してみると。
 小指より小さな人型の()()が、横倒れで気を失っている。

 膝裏に届きそうなほど長く緩やかな、やや緑がかった金色の髪。
 緑色の葉っぱを三枚ほど巻き付けた華奢な少女の体に、指が無い足先。
 陶器のような白い肌を露出する背中には、蜻蛉(とんぼ)を思わせる半透明な四枚の羽が生えている。

「……ピクシー?」
「ピクシー? なんだそりゃ?」
「イタズラで人を困らせる、手のひらほどの大きさの妖精だと聞きました。それにしては、特徴が少々違うようですが」
「あー。そりゃ多分、ソイツら(精霊)を基にした後世の創作だな。精霊は基本的に大の人間嫌いだから、変にちょっかいかけるくらいなら、見つかる前に姿を隠そうとするぞ」

 大の人間嫌いで?
 見つかる前に、姿を隠そうとする?

「つまり、彼女は今、私達がここに居ると気付いていなかった?」
「死にかけてっからな」

 弱々しく見えたのは間違いじゃなかったのか。
 ……というか。

「死にかけていると分かってて叩き落としたんですか!?」
「小虫みたいで鬱陶しいから」
「貴方ね……」

 知ったこっちゃない。と、背を向けて歩き出すベゼドラにため息を吐き。
 宝石が入っているコートの内ポケットに、彼女をそっと入れてみる。
 それでどうなると尋かれても困るが。
 神々に使役されていたのなら、それに類するであろう力に触れていれば、少しは楽になるか? と、思ったのだ。

 同行者の突然の非礼をお赦しください、精霊さん。



 廃墟がある山を下った私達は、その後いくつかの村や街を渡り歩き。
 現在は、国境沿いの森林地帯を、北区から西区へ向けて通過中。
 この近くにも居住地が無かったので、夜道を黙々と進んでいた。

 絹色の丸い月が、暗闇に沈む物影に
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ