第ニ十三夜「影踏み」
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からな。
だが、その女性はこちらを向くや、躊躇いもせず笑顔で手を振った。
「謙司君!」
その笑顔は紛れもなく…愛季子だった。
ポカンとしている俺のとこへ、彼女は嬉しそうに駆けてきた。そんな彼女に、俺は少しだけドキッとしてしまった。
「久しぶり、元気だった?もう…こんなにカッコよくなっちゃって。」
「あ…あぁ…。お前こそ綺麗になったな。最初、誰だか分からなかった。」
「またぁ…。謙司君、口まで上手くなっちゃって。」
「本当だって。声掛けるか迷っちまったよ。」
「そう?なら…嬉しいかな…。」
「…?」
彼女の言葉に、俺は少し違和感を感じた。それが何かは分からなかったが…。
「でも、何で今になって俺なんかに会いに?」
「ま、その話は中に入ってからにしよ?」
そう言って愛季子は俺の手を握って店へと入った。
そこは喫茶店…と言うよりは小さなレストランと言え、イタリアのトラットリアに近かった。
俺たちは案内された席で、最初は他愛ない話をした。卒業後の話から始まり、会社の話や友達の話など、取り留めもなく話続けた。それこそ付き合った相手のことまで…。
そして、今は互いにフリーだと分かったが、どうも愛季子の様子がおかしな気がする。
「なぁ、お前…なんかあったんじゃないか?」
「え…?」
彼女の表情が変わった。俺は「やっぱり…。」と思った。
「話してみろよ。そのためにここに来たんじゃないのか?」
俺がそう促すと、彼女は小さな溜め息を吐いた。
「あのね…私、今度お見合いさせられるの。」
「…そうなんだ。相手は?」
「父の勤めてる会社の上役の息子さんだって。」
「へぇ…。でも、乗り気じゃないみたいだな。」
俺はそう言って珈琲を啜ると、愛季子は珈琲カップに両手を添えながら返した。
「あの…久しぶりに会って突然こんなこと言うのもどうかとは思うんだけど…。」
彼女はそこで言葉を切った。どうも言い難い話の様で、俺にそのことで何かを頼みに来たのだと思った。
「言ってみろよ、あっちゃん。」
俯く彼女に、俺はニッと笑って言った。俺に出来ることなら、何でもしてやりたいと思う。
俺はそんな大層な人物じゃないが、久々に会った幼馴染みの力になれない程ヤワでもない。ま、権力者に楯突く程の度量は無いが…。
「あのね…今度のお見合い、私が本当に好きな男性を紹介したら…断ってくれるの…。」
「で、俺を代わりに?」
「そうじゃないの!」
「…?」
俺は首を傾げた。だったら、俺になにを…。
「あの…私、ずっとけんちゃんのことが…好きなのよ!」
「…は!?」
「だから、代わりじゃなくて…」
俺は目を点にした。愛季子に表情を隠す様に俯き、迂闊にも顔を赤くしてしまった。
別に童貞と言うわけじゃないが、こん
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