第ニ十三夜「影踏み」
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「もう!影踏まれちゃったら捕まるよ!」
- 影を…踏まれたら…? -
俺はこの遊びの名を忘れていた。なぜだろう…?こんな簡単な名前を、俺は全く思い出すことは無かった。今の子供は誰もやらず、まるで過去の置物の様になってしまった遊び…。
夕焼けに落ちる長い影は、まるで俺を揶揄っているかの様に記憶を抉じ開けようとし、その度に俺はそれをひたすら拒絶し続けていた…。
それが今、打ち砕かれた気がした…。
「影踏み…。」
そのままの名前。地方によってルールなど少しずつ違う様で、名前も“影鬼"“影踏み鬼"などとも言われている。
なぜこんな単純な名を忘れていたのか…。今にして思えば、きっと忘れたかったんだろう。幼い頃の楽しかった記憶を…。
まるで子供だと、俺は苦笑した。今の楽しさに偽りはないが、子供のそれとは全くの別物だ。
それでも…似かよっているようで、俺は自分の弱さを実感させられた様な気がした。
その時、ふと携帯の着信音が響いた。俺は携帯をポケットから取り出して番号を確認すると、それは知らない番号からだった。
「誰だ?変なヤツじゃないだろうなぁ…。」
それは全く鳴り止まず、仕方無く出てみることにした。
「もしもし…?」
俺がそう言うと、向こうから女性の声が返ってきた。
「あ、謙司君?覚えてるかなぁ…私、愛季子だけど…。」「もしかして…あっちゃん!?」
「そう!良かったぁ〜、覚えててくれたんだ。」
電話の主は、小学校卒業と同時に引っ越した幼馴染みの橘愛季子からだった。
あれから随分経つのに、よく俺の番号が分かったと思う。知っているのは会社のヤツら以外は、二人の叔父と高校の恩師の三人だけの筈だが…。
「しっかし、よく番号分かったなぁ。」
「あのね、この前偶然に恭行さんに会ってね。謙司君がどうしてるのか聞いたら、この番号を教えてくれたの。」
「恭叔父さんが…?そんな話聞いてないけど…。」
「私が黙っててほしいって頼んだの。ビックリさせたくて。」
「確かに…ビックリしたよ。」
俺たちは少し話した後、近いうちに会うことにした。無論、互いに顔が判るかどうかは不明だ。記憶にあるのは、互いに小学生のままなのだから…。
数日後、俺は愛季子に会うために家を出てバスに乗った。
彼女が指定した場所は、この辺でも名の知れた喫茶店だった。俺にとっては隣町だが、愛季子にとってはかなり遠い。どうやら噂を聞いて来てみたかったようだ。
バスから降りて少し歩くと、指定された喫茶店が見えて来た。彼女とは店の前で待ち合わせていたのだが、そこに居たのは可愛らしい…と言うよりも、美しい女性が立っていた。
- まさか…なぁ…。 -
俺は躊躇った。あんな美人に声を掛けて間違っていたら…それこそ下手な軟派だ
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