第3話「少年は詩を奏で桜は音もなく散る」
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廃倉庫には張り詰めた空気が流れていた。
糸に縛られたように双葉は全く動かず――いや全く動けずグラハムと相対していた。
「オレにいきなりアタックしてくるたァ、これは何のサプライズだ。ドッキリか。カメラはどこにある?」
「そんなものない」
大げさに目を丸くして周囲を見渡すグラハムだが、驚いていたのは双葉の方だった。
攻撃の認知すら与えない先手を打ったつもりだった。いや、実際双葉は普通の人間なら気づいた時にはもう倒されているぐらいの速さで攻撃していた。
だがグラハムはその神速を悠々と受け止めた。しかも双葉が咄嗟に武器代わりに用いた鉄パイプを本来なら金具を締めるために使われるレンチの先端に挟み、彼女の動きを完全に奪っていた。
「そうか。いや正直驚いたよ。だが驚くのはイイコトだ。驚きとは人生は常に先の読めない闇だと教えてくれると同時に何が起こるかわからない楽しみを与えてくれる。こんな驚きをくれたアンタにオレは何か礼をしなきゃいけないが、何をしたらいい?」
締められた鉄パイプはレンチから抜くことができず、双葉は強制的にグラハムの長台詞を聞かされるハメになった。
もちろん黙っているだけの彼女ではない。言葉の羅列が並べられる間にも双葉は負けじとジリジリ鉄パイプを押しこんで攻める。
「ならばやめるんだな、己しか笑えない楽しい話など」
鋭い眼を向ける双葉に、チチチと舌を鳴らしながら人差し指を振ってグラハムは答える。
「オレだけじゃない、みんな楽しめるさ。ほら笑う門に笑顔来たるって江戸にそんな言葉があるだろ。同じようにオレが笑って壊せば、つられてみんな笑い、やがて世界が笑顔で埋め尽くされること間違いなしだ。そうなりゃアンタもオレも世界もハッピーハッピースマイル&ハッピーだ」
ダハハハとグラハムの楽しそうな笑い声が廃倉庫に木霊する。
気分上々の暖かなテンションとは真逆に、双葉の感情は冷え切っていた。
「……戯言を抜かすのも大概にしろ」
黒々しく灰色に染まった空。
人間と天人の屍が溢れた戦場。
笑うは殺戮を愉しむ者たった一人。
「辺りを見渡せ。真に笑っているのは貴様だけだ!」
走馬灯のように駆け巡る忌々しい記憶をグラハムごと押し切ってなぎ払う。
それでもかつて自分が犯した過ちは消えない。だが罪の重さを知らない奴に楽しげに謳われて、どうしようもない怒りが沸き上がった。
怒涛に染まる双葉に対し、グラハムはまだ楽しげに笑顔を浮かべていた。
「謎に満ちたミステリアスな話をしよう。ツッパねたグラマー姉ちゃんかと思ったら、このオレの防壁をあっさり打ち砕いた。アンタ凄いな。というより今のドタンバでできる技じゃないよな。さっきといい今といい、どう見ても素人の動きじゃない。アンタ何者だ?」
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