第3話「少年は詩を奏で桜は音もなく散る」
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「答える義理はない」
ふいに真剣な目つきになって尋ねても双葉の態度は変わらず、グラハムは残念そうに溜息をついた。しかし次の瞬間には不気味さを帯びた笑みへ戻り、レンチを回し始める。
「謎を散らばしておいて結局教えてくれないとは、謎のまま終わらせるつもりらしい。おいヤベェよ、それって余計気になって眠れねェよ。旅行の前の日にコーフンしすぎて眠れない位に眠れねェよ。ヤバいな、このままじゃオレ不眠症になっちまうぜ。
だがしかし、逆を言えばそれだけオレの人生はお楽しみに溢れてるって話だ。ああそうさ、謎を謎のままにした方がより楽しめるのは、タネ明かしされたマジックほどつまらないものはないからだ。眠らないだけで楽しみが手に入るなら、オレはいくらでも起きていよう。さぁ、今からいつまで起きていられるか十代最後の挑戦の始まりだ」
倦怠さの混じった低い声とは正反対のハイテンションさで、モンキーレンチを天井へとかざすグラハム。根拠のない自信に満ち溢れたその姿には、何かを惹きよせる不思議な魅力があった。
だが今の彼に待ち受けるのは、呆れた視線だけ。
「おい」
「ん?」
「その減らず口、少し削ったらどうだ」
一言にあれだけの長台詞を返せる文才はある意味絶賛ものだ。しかしそれは今の双葉に鬱陶しく、苛立ちを募らせる要因にしかならない。
そんなことを知ってか知らずかグラハムは申し訳なさそうに、けれど口元の歪んだ笑みは消さずに謝罪する。
「すまないな。いつものことだがついつい口が滑っちまって、よくへそ出しのピンクのガキにウザいって怒られるよ。故郷で可愛がってた弟分も涙を流してオレを注意したもんさ。その涙に免じてオレも何度か治そうと努力した。そう努力はしたぞ」
大事なことだから二回言った、と言わんばかりにグラハムは拳を力強く握る。
「しかし止めてもオレの口は止まらなかった。いやそれどころかオレの口は止まる事を知らず益々口数が増えていった。そしてオレは気づいた、気づいてしまった。この止めようのない口は他の誰も持っていない、オレだけの、オレにしかない『個性』だと。だからこれはオレの個性と受け取って欲しい!!」
「ようするに治す気はもうないんだな」
溜息混じりに吐かれた双葉の要約に、グラハムはクルりと身体を一回転させレンチを向ける。
「その通り。だがオレからこの個性をとったらお楽しみは一つしか残らない。唯一の個性を失ったオレに残されたたった一つの楽しみは『破壊』だ!」
喜哀が入り混じった表情でグラハムは断言した。
「楽しい。そう『破壊』は楽しい。オレの心は破壊でしか満たされない。壊して壊して壊しまくってでしか快感できない。……ったく、趣味が『破壊』ってほんとオレってどうしようもねェ人間だよな。オレだけの『個性』は人様に煙たがられるほどの騒音を与え、
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