べぜどらくんのしっぱい
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良い香りがする。
火を通して立ち上る、小麦の甘い香りだ。
「どうしました？」
クロスツェルが不思議そうな顔で俺を見上げる。
コイツには判らないのか？
「最高級品質だ」
「……はい？」
街に着いて早々の、この芳ばしさ。
大きな工房でもあるのか？
いや、これは大量生産できる品質じゃない。
どっちかと言えば。
密かに細々と保ち続けてきた故に醸し出されている、至高の香り！
「別行動する」
「今からですか？ それは構いませんが、宿は？」
「夜、ここで」
「えーと……では、私の一存で決めておきますね。行ってらっしゃい？」
「ああ」
街の入り口で目蓋を小刻みに開閉しながら手を振るクロスツェルを放置。
俺は住民と観光客が入り交じってる雑踏に足を踏み入れ、香りを辿る。
しかし、これは難関だ。
至高の香りをさえぎるように、ほんの少しだけ質が違う、けれど、決して勝るとも劣らない高級な香りが、街中の至る場所から複数放たれている。
一瞬の気の緩みで見失ってしまう。
途切れ途切れだ。
何故、こんなにも多種多様な小麦の匂いが混じってるんだ？
産地なのか？ 名産なのか？
通ってきたほうに、それらしい麦畑は無かったが。
俺達が入ってきた入り口とは反対方向にあるのか？
多分そうなんだろうな。
どんな品種を、どれだけ育ててるんだ？
こんな香りの嵐は滅多にな……
いや、待てよ!?
そういえば、この辺一帯は雪山に囲まれてたよな!?
雪山があるってことは、良質な水に恵まれてんじゃないのか!?
水が良ければ当然、小麦も質が良い！
土質は？ 土質はどう影響してんだ!?
小麦にとっての理想的な気候条件は!?
くそ！
俺としたことが、原材料生産の詳細に目を向けていなかったとは、迂闊！
街の中を大雑把にうろついてみて分かったが。
ここはとにかく、小麦製品と水に関わる商品が多い。
酒の種類も、他の街の比じゃない。
子供向けの焼き菓子も各店頭にずらりと並んでいるが、それより何より、目を惹く素晴らしい看板の数々に、心が踊る、胸が高鳴る。
やはり、そうだ。
ここは…………
「ここは、パンの聖地！」
何がなんでも、この最高級品質の香りの源を探し当てねば！
「ありがとうございました〜」
「くっ……」
ここも違った。
だが、この店のバゲット。
通常の物より柔らかく仕上げて、子供にも食べやすい工夫をしてる。
噛み応えを重視した顧客にはあまり評価されていないようだが。
これはこれで、なかなかイケるぞ。
外側のカリカリ部分を落とせば、
「！ ここにもあ
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