暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
べぜどらくんのしっぱい
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 次の店で十七軒目だ。
 これだけ回っても見つけられないとは、さすが聖地。
 侮っていたのは、俺のほうか?

 いいや、まだだ! まだ諦めん!
 この手に……この口にするまでは、絶対に諦めないぞ!
 待ってろよ、最高級品質のパン!!



「どうしたんですか? その顔。憔悴(しょうすい)し切ってるみたいですけど」

 街に着いた時は昼間だったが、気付けば辺りはすっかり真っ暗。
 待ち合わせていた入り口で、クロスツェルが目を瞬いた。

「……なんでもない……」

 そう。
 別に、なんでもない。

 普通にパンを食べ歩きしまくって、やっと見つけた香りの源。
 その店が、営業時間を過ぎていただけ。
 辿り着く数分前に店じまいしていただけ、だ。

「? とりあえず、宿は確保しておきましたから。行きましょう」
「……ああ」

 まさかパン屋だけで三十八軒もあるとは、さすがに予想外だった。
 他の商品と併せて売ってる店を数に入れたら、軽く百軒は超えてたぞ。
 多すぎだろ、パン取り扱い店。

 どこもそれなりに旨くはあったが。
 食いすぎたせいで、(のど)から胃にかけてが気持ち悪い。
 違うと分かってても試したくなるんだよ。仕方ないだろ。

 あー……今日はもう寝よう……。

「あ、そうそう」

 先を歩くクロスツェルが、何かを思い出したように突然振り返った。

「この街では卵料理も有名なのだそうです。やはり水が良質な土地は食材が豊富ですね。ベゼドラが好きな卵焼きのサンドイッチもおすすめだそうで、連れの好物だと話したら、たくさん用意してくれましたよ。宿で」
「……なに?」
「ほら、あそこです。一階でパン屋、二階で宿屋を経営してるんですって。酒場や軽食屋との併設ならよく聴きますけど、パン屋との併設って、何気に珍しいですよね」

 何も知らず、にっこりと笑うクロスツェルが指した先は。
 もう、言わんでも分かるだろ。



 サンドイッチは無論、次の日に全部食った。
 期待通りの最高級品質の味わいは、前日の失敗を鼻で笑える逸品だった。
 やっぱり、パンは卵と一緒に食うのが一番旨い。
 瑞々しいトマトやレタスやキュウリなんかが入っていれば、なお良しだ。

 だが……、パンだけってのは、当分要らねえ……。


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