暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
べぜどらくんのしっぱい
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ったか!」
「いらっしゃいませえー!」

 店を出て、数歩先にも違うパン屋?
 くそ、どういうことなんだ。

 こんなに近接して、競合して、客の流れはいったいどうなってんだ!?
 近くだからこそ割れてんのか!?
 まさかとは思うが。
 固定客が入れば良い、とかいう侮りでもあるんじゃないだろうな!?

 そんな甘い考えでは、せっかくの材料を生殺しにしてしまうじゃないか!
 日々、原材料の質や持ち味、気温や湿度なんかの作業環境と向き合い!
 客の要望の真意を汲み取り、己の腕前を研鑚(けんさん)し!
 自分の店ならではの、より良い商品を追求してこその商売だろうが!
 妥協は堕落と心得よ!
 商売するなら、これ鉄則!!

 ……まあ、とりあえず?
 この店でも、何か特徴が判る物を選んで買ってみ………………

 ダメだ。
 どれもこれも目を惹く。

 惣菜系が少ないんだな。
 全部を買うわけにはいかないし、仕方ない。

「この店のおすすめは?」

 店員の女に尋ねてみれば、女は満面の笑みを浮かべて答えた。

「はい! 当店では、原材料の品質と焼き方にこだわりましたロールパンをぜひ、ご賞味いただきたいです!」
「なっ……!?」

 ろ……ロールパン、だと!?

 慌てて、件の商品を確認する。
 余計な物が何も練り込まれていない、シンプル イズ ベストフォルム!

 素晴らしい!
 見た目の焼き加減も、やや卵型の丸っこさも申し分なし。
 完璧だ。

 せっかくの美形を潰してしまわぬよう。
 トングで慎重に挟んで掴み上げ、銀のトレーの上にそっと乗せて。

 これは……ふんわりと柔らかでありながら、そのまま潰れるのではなく、やんわりと弾力を感じさせる手応え。
 生地の密度が程好い証拠だ。
 これは期待できそうだ。

「ありがとうございましたーっ」

 食パンとロールパンは、そのシンプルさ故に、素材と掛けた手間が味覚へ直に伝わる、職人にとっては非常に難しい商品だ。
 それをすすめるとは、腕にかなりの自信があるのだな。
 早速、試してやろうじゃないか。

 会計後、店先に出て食べ歩き用の簡易な包装紙を開き、まずは一口。
 噛み締め、飲み下して、二口、三口……

「…………ふん」

 なるほど、悪くない。
 手で持ってみた感触も、噛んだ瞬間の歯の通りも、実に見事。
 噛めば噛むほどほんのりと鼻を抜けるバターの甘い香りも良い。
 くどくなく、足りなくもなく。
 最後まで絶妙な均衡を保ったまま、喉に流れていった。

 確かに、これは旨い。
 だが、最高級と評するには塩加減が少々惜しい。
 高級ではあるが、これでは……

「!! あっちか!?」

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