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トワノクウ
トワノクウ
最終夜 永遠の空(七)
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すか?」
「――どんな妖でも時の流れには逆らえない」
不死(しなず)の呪いが永劫の責め苦でないのでしたら、鴇先生は受け入れてくださいます」

 復活した鴇時は朽葉のもとへ帰る。背負ったものに苦しみはしても恨む人ではない。朽葉と同じものを負うことで彼女に少しでも近づける、とポジティブに解釈できる強さを持つ人だ。

 そういう人だとくうは知っている。くうは鴇時の教え子だから。
 信念も情愛も、鴇時から貰ったものでこの身は成されているから。

 梵天は動かない。当然だ。彼からすれば二度目のトラウマともなりかねない。救済の裏側を梵天はこの世の誰よりも知っている。

 なればこそ、くうは残酷な最後の後押しをする。

「くうは、忘れたいんです」

 彼に己を責めてほしくないから。

「くうが(たい)を譲ればくうはあまつきで死亡扱いになります。そうなれば、お父さんのようにセーブデータのないくうです、ここでの記憶を持ち越して現実に帰ることはできません」
「そうだろうね」
「私は忘れたい。薫ちゃんと潤君が私を殺したことを。立場を守るために殺してもいいと思ったことを。でなきゃ私一人が苦しいじゃないですかっ!」 

 本心のカケラを何十倍にも肥大させ、目尻に涙さえ浮かべて、くうは語った――騙った。

 優しい鳥がこれ以上苦しまなくていいように。
 この世で生きるチャンスをくれた彼の心が晴れるように。

「何にも覚えてなくて、何もかもなかったことにして友達面する薫ちゃんと潤君と、これから何年も付き合ってくんですよ!?  あんまりですよ! 私にも忘れさせてくださいよ!」

 くうはいつかのように梵天の胸に縋った。

「くうを薫ちゃんと潤君のとこに、友達と幸せでいられた毎日に、帰して……!」


 ――やがて背中と頭に、体温の高い手が添えられる感触があった。

「君は本当にどうしようもない子だね」
「ごめんなさい」
「いいさ。姉さんに比べれば駄々もまだ愛嬌があるほうだ」

 声が温かい。寄せた胸板が温かい。凍えるくうをいつもぽかぽかにしてくれた梵天の体温も、これが最後。

「くうの叔父さんが梵天さんでよかった」
「今さら褒められてもうれしくないよ」
「はぅ」
「――くう」
「はい」
「抱きしめていい?」
「え、ど、どうぞ」

 梵天の腕に力がこもる。今までの慰めの抱擁とは異なる、情からの束縛。

「――走狗だった頃、俺は姉さんに指一本触れなかった。姉さんから俺に触れることもなかった」

 切なくなる。己を過酷な運命に追い込んだ母を許せなかったのは分かる。くうにとって母親であっても、梵天には絶望を与えた姉で――そんな姉への情を断ち切れない彼自身を、彼は決して許さなかった。

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