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黒魔術師松本沙耶香 客船篇
24部分:第二十四章
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第二十四章

「男とどちらが」
「それは」
「そうね。それは言えないわね」
「どちらがどちらとは」
「男のそれとはまた違う快楽なのよ」
 そうだと話すのだった。
「これはね」
「そうですね。また別の快楽なのですね」
「その二つを知ってこそ本物なのよ」
 その美女の方を振り向く。ようやく水着を元に戻したところだった。だがその顔はまだ赤らんでいて放心しているものが残っているのがわかる。
「それでね」
「本物ですか」
「そうよ。本物よ」
 沙耶香はまた話した。
「これでわかったわね」
「また。してくれますか」
「あら、はじめてなのに」
 それを見てまた話す沙耶香だった。
「もうなのかしら」
「こんなにいいものだとは思いませんでした」
「そうね。けれど何時会えるかはわからないわよ」
 今はこう言うだけなのだった。
「貴女にとっては残念かも知れないけれど」
「行きずりですか」
「違うわ。そうね」
 ここからはわざと言葉を選んだ。そうして出した言葉は。
「偶然的恋愛よ」
「それですか」
「そうよ。それよ」
 それだと言ってみせたのである。サルトルの言葉だ。なお彼はこれを口実にして浮気を楽しんだことでも知られている。それなりに人間味もある哲学者だったのだ。
「それだから」
「そうですか。それですか」
「だから」
 そう話してみせたのだった。50
「また会った時にね」
「そうですか」
「ただね」
 しかし沙耶香はここでこうも言うのだった。
「相手は私だけではないわよ」
「貴女だけではない・・・・・・」
「女は星の数程いるわ」
 まだうずくまっている彼女を見ながら笑みを浮かべていた。
「その美女達を貴女が抱けばいいのよ」
「それでいいんですね」
「そうよ。そうするといいわ」
 こう言って彼女も誘うのだった。その妖の道にである。
「わかったわね」
「はい、それでは」
「それじゃあ」
 ここまで話すと沙耶香はプールを後にした。彼女にとっては心地よい朝の時間だった。
 その心地よい朝の時間を過ごした後で。彼女はある場所に向かった。そこはロビーである。赤いビロードのペルシャ絨毯が敷かれ眩い黄金の光を放つシャングリラがその黄金の部屋を照らし出している。彼女はそこの柔らかい紅のソファーの一つに座り前にあるルネ=マグリットのシュールリアリズムの絵画を見ながら煙草に火を点けた。その彼女の後ろから声がしてきたのであった。
「如何ですか?」
「楽しいわ」
 煙草を吸いながらその声に応えた。
「まずは二つよ」
「もう二つですか」
「楽な仕事からやらせてもらったわ」
「最初のものはそうは思えませんが」
「私にとっては楽なものだったわ」
 煙草の煙を口からふう、と出しながらの言葉
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