第156話 張允
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宗は張允を見て口を開いた。
「張允、この私に全て申してみよ。私ならばお前の力になれる」
正宗は張允に断言した。すると泣きはらした目で張允は正宗のことを見た。
「本当にお助けくださるのですか?」
張允は両目に涙を溢れさせ正宗に縋るように見つめた。
「助けよう。お前の怪我も治療してやるから安心するのだ」
張允は両目に涙を溢れさせると頭を左右に振った。
「む無理にございます。いかな名医と言えど私の傷を治せる訳がありません」
張允は正宗から視線をそらすと嗚咽し涙を止めどなく流していた。泣きじゃくる彼女の姿に部屋いる者達は戸惑っている様子だった。伊斗香は張允のことを冷静な目で見つめていた。
「張允、私を信じて欲しい」
正宗は張允に更に近づくと彼女の両肩を握り自分の方を向かせた。しかし、張允は正宗から顔を逸らし嗚咽していた。
「私は医術の心得がある。私の将兵の傷も治してきた。腕が無くなろうが死なぬ限り命を救うことが出来る」
正宗の言葉を聞いていた荀爽、伊斗香、桂花は正宗が慰めの言葉をかけていると思っているようだった。張允の様子から余程酷い傷であることは間違いない思っているのだろう。ならば傷を治療したところで傷跡は残る。
しかし、張允にとって正宗の言葉は藁をも縋る想いなのだろう。正宗の話を聞くと縋るような目つきで見つめてきた。彼女の瞳は泣き腫らして赤くなっていた。
「私と張允だけにしてもらえるか?」
「出来ません」
正宗の言葉に朱里が異を唱えた。
「その者が賊でない証拠がございません」
「死んだ二人は殺気を押し殺していたが、張允は終始私に恐怖していた」
「それでは証拠として弱いです。正宗様がその者の治療を行う最中にお命を狙う可能性もあります」
「劉車騎将軍、私は傷を治していただけるなら構いません」
張允は力ない声で正宗に声をかけてきた。だが、その声には躊躇いが感じられた。傷を見せることに抵抗があるのだろう。張允の気持ちを察したのか、正宗は目を泣き腫らした張允を見つめ逡巡していた。
「張允、許せ」
正宗は彼女に謝り、彼女の顔を覆う布に手をかけた。その瞬間、張允は体を固くした。正宗はゆっくりと張允の布を外していった。彼女の顔が露わになると彼女は体を震わせ再び泣き出した。正宗は彼女から目を逸らさながったが、周囲の者達は彼女の顔を見て視線を逸らした。荀爽は傷の酷さに口に手を当て視線をそらしていた。
「惨い」
正宗は力なく短く答えた。周囲の者達の気持ちも同様であったろう。
「朱里、もう気が済んだだろう。私と張允以外は治療が終わるまで部屋を出ていてくれ」
正宗に言うと彼と張允以外は部屋からおとなしく出て行った
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