始まりと終わりの地
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近くには居たのか。
まさか、勇者を相手にベゼドラが敵前逃亡を……したとは思えないが。
どうも、ベゼドラと英雄の距離感が掴めない。
遠くから面白半分で観察していたのだろうか?
それなら分かる気はする。
「で。ここが光の目標地点らしいな」
「え? あ」
瓦礫を乗り越える時にしまった宝石が、ポケットの中で淡く光っている。
慌てて袋を取り出してリボンを解くと、今度は虹のような曲線ではなく、宝石自体が円く輝きながら宙に浮かび上がった。
「……前々から思っていたのですが、神々の時代において、こういう現象は日常風景だったのでしょうか?」
「まあな。人間以外には、日常風景だ。だからこそ、非力な人間には勇者が必要だったんだろ?」
薄い水色の尾を引く宝石が、踊るように自分達の周りを浮遊する。
ゆったりと二周してから、目の前に戻ってきて。
差し出した自分の手のひらにポスッと落ちた。
かと思えば、突然閃光を放つ。
眩しさで咄嗟に目蓋を閉じた、次の瞬間。
「貴方は、誰?」
少女特有の高い声が響いた。
耳に、ではなく、直接頭の中に。
驚いて目を開くと、銀色に光る魚が視界を横切った。
一匹ではない。
足下にも、右にも左にも、頭上にも背後にも。
群れが、単体が、無数の泡を引き連れて、ゆらゆらと泳いでいる。
「…………海?」
いや、海に潜った経験はないから、実際にはよく知らないのだけど。
聴いた話で想像していた海中が、ちょうどこんな感じだった。
足下の黒にも等しい青色から、頭上の薄い水色にかけての濃淡が美しい。
「貴方は、誰?」
呼吸は普通にできているものの。
時間を止めた時によく似てる、髪先まで水中を漂っているような感覚。
さて、会話はどうだろうか。
「私はクロスツェルと申します」
「……クロス ツェル?」
あ、ちゃんと通じた。
「クロスツェルは、どうやってここに来たの?」
「人捜しの旅の途中で、薄い水色の宝石を所有していた方と出会いました。なんでも宝石と同じ色の虹彩を持った女性が、宝石を私達に渡して欲しいと所有者の方に頼まれたそうで。その宝石が放つ光に導かれて、でしょうか」
ちょっと説明が大雑把すぎたかな。
「……そう。『結晶』は、あの子の手に残らなかったのね」
『結晶』?
レゾネクトも、あの宝石を『結晶』と言っていた。
そういえば、今は宝石も本も持ってない。
落としてしまったか?
「でも、貴方からは、あの子の力を感じる。だから『鍵』が動いたんだわ。貴方は、あの子を知ってる?」
自分から力を感じる?
それは……
「…………『アリア』?」
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