暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
始まりと終わりの地
[4/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
近くには居たのか。
 まさか、勇者を相手にベゼドラが敵前逃亡を……したとは思えないが。

 どうも、ベゼドラと英雄の距離感が掴めない。
 遠くから面白半分で観察していたのだろうか?
 それなら分かる気はする。

「で。ここが光の目標地点らしいな」
「え? あ」

 瓦礫を乗り越える時にしまった宝石が、ポケットの中で淡く光っている。
 慌てて袋を取り出してリボンを解くと、今度は虹のような曲線ではなく、宝石自体が(まる)く輝きながら宙に浮かび上がった。

「……前々から思っていたのですが、神々の時代において、こういう現象は日常風景だったのでしょうか?」
「まあな。人間以外には、日常風景だ。だからこそ、非力な人間には勇者が必要だったんだろ?」

 薄い水色の尾を引く宝石が、踊るように自分達の周りを浮遊する。
 ゆったりと二周してから、目の前に戻ってきて。
 差し出した自分の手のひらにポスッと落ちた。
 かと思えば、突然閃光を放つ。

 眩しさで咄嗟に目蓋を閉じた、次の瞬間。

「貴方は、誰?」

 少女特有の高い声が響いた。
 耳に、ではなく、直接頭の中に。

 驚いて目を開くと、銀色に光る魚が視界を横切った。
 一匹ではない。
 足下にも、右にも左にも、頭上にも背後にも。
 群れが、単体が、無数の泡を引き連れて、ゆらゆらと泳いでいる。

「…………海?」

 いや、海に潜った経験はないから、実際にはよく知らないのだけど。
 聴いた話で想像していた海中が、ちょうどこんな感じだった。
 足下の黒にも等しい青色から、頭上の薄い水色にかけての濃淡が美しい。

「貴方は、誰?」

 呼吸は普通にできているものの。
 時間を止めた時によく似てる、髪先まで水中を漂っているような感覚。
 さて、会話はどうだろうか。

「私はクロスツェルと申します」
「……クロス ツェル?」

 あ、ちゃんと通じた。

「クロスツェルは、どうやってここに来たの?」
「人捜しの旅の途中で、薄い水色の宝石を所有していた方と出会いました。なんでも宝石と同じ色の虹彩を持った女性が、宝石を私達に渡して欲しいと所有者の方に頼まれたそうで。その宝石が放つ光に導かれて、でしょうか」

 ちょっと説明が大雑把すぎたかな。

「……そう。『結晶』は、あの子の手に残らなかったのね」

 『結晶』?
 レゾネクトも、あの宝石を『結晶』と言っていた。

 そういえば、今は宝石も本も持ってない。
 落としてしまったか?

「でも、貴方からは、あの子の力を感じる。だから『鍵』が動いたんだわ。貴方は、あの子を知ってる?」

 自分から力を感じる?
 それは……

「…………『アリア』?」

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ