第2話
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ったの」
と素っ頓狂な声を出した。誰だ、その片山と言う女子は。智は初めて聞く名前が大いに気になった。
優大と浩徳の話を聞くと、どうやら彼らが通っていた剣道の道場で一緒だった女子であるという。今は高一だそうで、すごくなついていたらしい。
「いやー、そうかあ。ゆづっちゃんも月姫かあ」
優大は本家に集まった親戚のおじさんみたいな声でしゃべる。
「で、どんな関係なんだ?」
話を聞いていた他の部員たちも集まってきて、優大の周りを囲んだ。まるで芸能人の囲み取材のようだ。
「うーん、あれはただの後輩だな。むしろ妹」
そう優大が答えると、その場にいた男子部員は持っていた小道具を投げ捨て、優大に次々と覆いかぶさった。
ぐわあ、と苦しそうな声がした。
* *
「女流剣術家になれるぞお」などと言って、学生の頃剣道にたしなんでいた父に連れられてやってきた、家の近くの警察署。警察官の中でもとびきり怖い人しか集まっていないと思って、ものすごく不安だったあの時、初めて先輩の竹刀捌きを見た。ひらりと軽やか足運びと強烈な一撃。勇ましさの中にある冷酷さに気付き、背筋が凍りつく。鼓動が高まる。ついには剣道をやろうと固く決意した小学四年生の夏。女子剣道部期待の高一、片山結月はその時から、松本優大が道場を卒業するまでずっと、その背中を見て稽古に励んできた。
結月は月姫学園高等部に受かってから女剣に入るまで、今まで感じたことの無い期待と幸福にぷかぷかと身をゆだねていた。優大が道場を卒業し、一緒に稽古できなくなった中学生最後の一年間の剣道はとてもつまらないもので、受験勉強という重圧もあいまって「いっそのことやめてしまいたい」と思うことも多々あった。だから、優大の稽古姿をこうしてまた拝めるのは彼女にとって『この上ない幸せ』であったのだ。なにせ中高一貫校なのだから、高校生になっても部活は同じだろうし、技にはもっと磨きがかかっているに違いない。あの強さだから、主将になっていてもおかしくはないだろう。剣道以外でも、小学生の頃から親しい後輩としてさらに急接近しちゃったり、あわよくば彼女にまでなっちゃうかも―――などと、思春期の中学生が陥りそうな、プライスレスな妄想を頭の中で育てていた始末である。
入学式と始業式も無事に終わり、熱烈な歓迎を受けて女剣に入部した後、結月は勇気を出して男子剣道部へと向かった。そこにいるはずの優大を見るために。未来の彼氏、うまくいけば旦那さんになる人に――――
だが、現実は違った。そこには彼の姿はなかった。なぜだ。聞くところによると、優大は高一に進級すると同時に剣道部をやめたそうである。
目の前が真っ暗になった。
このまま続けて
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