第2話
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ぐ人ほど前に来て、静かな人ほど後ろに行くし」
浩徳は顔を黒板のほうへ向けた。
「君もあっち……留学先ではこんな席が好きだったの」
「うん。毎回移動だったけど、席は好きで選べたから。ぽかぽかして気持ちいいしねー」
あ、自分と同じだ。浩徳は美月に顔を向けた。彼女と目が合い、目をそらしてしまった。だが美月は浩徳を見つめたまま眉間にしわを寄せると
「だけど寝るのはだめでしょ。テストに響くよ」
と少しきつく言った。浩徳は
「ご忠告ありがとう。どの教科も八割は普通に取れます」
と嫌味っぽく返した。これは理解しがたい事実である。寝ているだけでテストの点数が良いのだから、担当の教師は訳が分からないのだ。カラクリは簡単で、友人にノートを写させてもらい、家で予習と復習をやるのが癖になっているだけなのだが、彼が教師から注意されることが少ないのも、勉強せずに騒いでいるのではなく迷惑をかけずに寝ているからであろう。
「ま、いいよ。そういう人なら」
そういうと彼女は前を向いてノートを取り始めた。ただのクラス委員気取りじゃないか、気にすることはないと思い、浩徳はまたこの場を寝てやり過ごそうとした。が、結局もやもやした気持ちは晴れず、浩徳はその後の授業全てにおいてでノートを取らざるを得なくなったのだ。
白みが増してきた雨雲を見て、今日は午後から雨がやみそうだな、と浩徳は思った。
* *
長く辛い六つの授業が終わり、放課後の部活動を始めようとする浩徳の姿は普段の授業中のそれと違っていた。
彼は優大と共に演劇部に入っている。演劇部は文化祭といった学校行事から月姫町感謝祭などの公的行事まで、多くの場で演劇を披露している。演奏は学園が誇る『月姫学園オーケストラ』が手掛け、それに合わせた歌唱を取り入れる、ミュージカルを主体にした部活である。二人ともこの部活には高一から入った。優大は歌が下手なので演技に力を入れているが、浩徳はバランスのとれた演技をしていて、重要な役回りを任されることも多い。
「なんだ、高山、いたのか」
講堂の舞台上でストレッチをしている浩徳を見て、客席から一人の男子生徒が声をかけた。
「あ、新島」
浩徳と優大の同輩、新島智である。彼は演劇部の部長であり、背が高く、すらっとした顔立ちをしている。釣り目で敏腕スナイパーのようなその人相を活かせばたちまち人気が出るであろうに、「恥ずかしいから」と言う舞台人にはあるまじき理由からあまり役を引き受けず、もっぱら脚本や演出に精を出している。だが、彼の手掛けるそれらは他の演出部員をはるかにしのぎ、繊細で流暢なセリフや歌詞には文芸部も手をたたい
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