巻ノ九 筧十蔵その五
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「そのことがわかりました、では」
「拙者にか」
「はい、宜しければ」
幸村さえよければというのだ。
「それがしを家臣の末席に加えて頂けるでしょうか」
「拙者に仕えてくれるか」
「またお聞きしますが術は何の為に使われるものでしょうか」
「知れたこと、天下泰平の為民の安寧の為じゃ」
幸村は筧にすぐに答えた。
「それ以外にはない」
「天下取りには使われませぬか」
「拙者は天下人になるつもりはない」
最初からだというのだ。
「真田家が残るのならな」
「天下取りはですか」
「拙者より遥かに素晴らしき方がおられる、拙者はそれよりも義を見たい」
「義を、ですか」
「天下の人の道を泰平を守るな」
それが幸村の義だというのだ。
「そして民が穏やかに過ごせればな」
「よいですか」
「うむ、左様じゃ」
「では冨貴は官位等は」
「銭なぞ必要なだけあればよい」
それが最も幸村の興味のないものだった。
「それを求めて何になる」
「では官位等も」
「いらぬ、全くな」
こちらについてもだった。
「拙者にはどうでもいいことに思える」
「ではご自身のことよりも」
「正しい力を正しいことに使いたい」
これが幸村の考えだった。
「常にそう思っておる」
「ですか、では」
ここままで聞いてだ、筧は微笑みだった。
そうしてだ、幸村にあらためて申し出たのだった。
「では若し幸村様さえ宜しければ」
「家臣にか」
「末席に加えて頂きたいのですが」
「真田家は小さい」
まずはこのことからだ、幸村は筧に言った。
「大きくなることもまずない」
「あくまで信濃の一家だと」
「左様、しかも上田は山の仲にある」
「不便だと申されるのですな」
「近江とは違う、全くの田舎じゃ」
まさにだ、そう言うべきところだというのだ。
「そんな場場所じゃからな」
「禄も少なく辺鄙な場所にずっといる」
「それでもよいか」
「ははは、それがしも禄には興味がありませぬ」
筧は幸村に笑って返した。
「そして何処にいても術を学べれば」
「それでよいか」
「はい」
あくまでだ、それだけだというのだ。
「妖術を」
「それに仙術に魔術といったものをじゃな」
「左様です、それだけです」
「では、か」
「はい、お願いします」
筧から申し出たのだった。
「それがしを是非」
「その術を正しきことに使いたいか」
「実は前より考えていました」
「術の使い道をじゃな」
「はい、最初はただ術に興味を持ち学んでいました」
最初はそうだったというのだ。
「実はそれがし堺のそれなりに豊かな商いの家に生まれまして」
「左様であったか」
「はい、幼い頃に文字を教わり書を読むうちにです」
「そうした術を知った
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