巻ノ九 筧十蔵その三
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「どうもそれだけではないかと」
「むっ、確かに」
弟に言われて兄も気付いた、部屋の中には。
多くの書があった、狭い部屋の中はその書で床を囲んでいる位だ。清海もその書の山を見て唸ってこう言った。
「これだけの書を集めて読んでおるのか」
「どうやら」
「これだけの書があるとなると」
「相当な銭もかかっておりますな」
「うむ」
清海は弟に真剣な顔で頷いた。
「これはな」
「この方、相当な学識がありますな」
「御主が筧殿か」
由利は男に単刀直入に問うた。
「そう思うがどうじゃ」
「如何にも」
男は微笑んで由利に答えた。
「筧十蔵と申します」
「やはりそうか」
「それがしに何か御用でしょうか」
「実は御主の噂を聞いてじゃ」
そしてとだ、今度は望月がその男筧に言った。
「是非当家に召し抱えたいと思ってな」
「それがしの様な浪人をですか」
「浪人といってもその者それぞれじゃ」
根津はこう筧に言った。
「それこそな」
「そう言われますか」
「腕の立つ浪人がおれば学のある浪人もいよう」
「してそれがしは」
「どちらもじゃな」
これが根津が見る筧だった。
「あらゆる術を知っておるな」
「妖術と忍術を少々」
「妖術か」
「はい、それがしの術は」
筧自身も答える。
「そちらになるでしょうか」
「仙術ではないのか」
「仙術も学びましたが」
しかしとだ、筧は清海に答えた。
「それがしの術はどちらかといいますと」
「妖術となるか」
「はい、そちらも学び」
そしてというのだ。
「明や南蛮の術も学びましたので」
「南蛮のか」
「この安土にも伴天連の者がおりまして」
「その者から教えてもらったのか」
「はい、あちらの言葉を読むのは苦労しましたが」
「それでもあちらの術もか」
「学びました、魔術や錬金術といったものを」
こう話すのだった、幸村達に。そしてだった。
筧はあらためてだ、一行に話した。
「しかしお話が長くなります故」
「部屋の中に腰を下ろしてか」
「狭い場所ですが宜しいでしょうか」
筧は幸村にも言った。
「これより」
「そうじゃな、ではな」
幸村も頷いてだ、筧の言葉をよしとした。そしてだった。
一行は筧の部屋の中に腰を下ろした、布団が敷かれていた場所のその布団を畳んでだ。そこで水を飲みつつ話をするのだった。
由利はその書の山を見てだ、眉を顰めさせて言った。
「しかしのう」
「書がですか」
「うむ、さっきも思ったが」
それこそというのだ。
「これだけの書を集めるとなると」
「銭がかかったな」
根津も言う。
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