巻ノ九 筧十蔵その二
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その者達を見つつだ、白虎は穴山達にさらに言った。
「だから別の町に行きます」
「そうされますか」
「では佐和山に行かれますか」
「ここは」
「そうしましょう、後は色々と」
近江の国中をというのだ。
「近江は色々な場所がありまする、見物していて楽しいです」
「今後の為にも」
「そうされますか」
「近江の国を回る」
「そしてよく楽しまれますか」
「そうするとしましょう」
こう言ってだった、白虎は安土を後にした。彼の周りにいた町人の身なりをした者達も何処かへと姿を消した。
幸村達は白虎と別れた後安土の西の長屋に来た、その長屋もだった。
人はかなり少なくなり寂れていた、多くの部屋が人がいなくなってだ、開けられたままの部屋の中には何もなかった。
犬も猫もいない、鼠すらもだ。蜘蛛の巣や小さな虫達が時折見られ道の端には草が生えだしていた。その長屋を見てだ。
幸村はあらためてだ、こう言った。
「やはりもうこの町はな」
「はい、寂れてですな」
「そしてですな」
「消えていく」
「そうした流れですな」
「そうなる、そしてここに」
その寂れ人気のなくなった長屋を見てだ、幸村はまたあ述べた。
「その筧十蔵がいるとか」
「ですな、では一体」
「その筧という者は何処にいるのか」
「探しましょう」
「そして会いましょう」
「うむ、そうしようぞ」
こうしてだった、幸村達は長屋を見て回った。確かに人は殆どいないがそれでもだった、その中の一つにだった。
人の気配がする部屋があった、一行はその部屋の前に来た。部屋を隔てている障子はこの部屋のものだけが寂れていなかった。
その障子を見てだ、幸村は言った。
「この障子だけが奇麗じゃな」
「はい、他は寂れていますが」
「ここだけは違います」
「そして部屋の中から人の気配がします」
「この部屋の中からだけは」
「うむ、ではな」
それではとだ、幸村は家臣達の言葉に頷いてだった。
自ら障子に手をかけた、すると。
その部屋の中からだ、声が来た。
「どうぞ」
「むっ、気付いているか」
「はい」
その通りだとだ、部屋の中から男の声が返って来た。
「気配がしました故」
「わかるか」
「それがしに何の御用でしょうか」
「まずは会って話がしたい」
幸村は部屋の中にいる相手にこう返した。
「貴殿に」
「わかりました、それでは」
男の声は応えてだ、そのうえで。
障子は部屋の中から開いた、そしてそこにだった。
すらりとして痩せた面長で痩せた顔の男が出て来た、歳は海野達と同じ位で学者の様な総髪で穏やかな表情だ。
身なりは質素であるが清潔である、暗灰色の袴に紺色の上着を着ている。その者がだった。
幸村にだ、こう言ったのだっ
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