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黒魔術師松本沙耶香 客船篇
17部分:第十七章
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第十七章

「あるわよ」
「そうなの。人によってはなのね」
「ええ。酔うこともあるけれど」
「これまで船旅は色々と楽しんできたけれど」
 これもまた真実である。彼女は外国で仕事をした帰りに船で帰ることも多いのだ。その時に船旅を楽しむこともよくあるのである。
 それでだ。今はこう言うのだった。
「それはないわ」
「船酔いではないの」
「それではないわ」
 それは違うとまた話すのだった。
「別の病よ」
「別のね」
「それも治されるのは私ではなくて」
 言葉を続けていくのだった。沙耶香はその間に部屋の中央に進んでいく。
 それから白い診察用のベッドに入ってだ。そのうえで話すのであった。
「貴女よ」
「私が?」
「匂いで感じたわ。気配でもね」
「気配で」
「ええ、その二つでわかったのよ」
 ベッドのところに腰掛けてである。そうして女医に顔を向けながら彼女自身に話すのだった。その整った妖艶な顔を見ながらである。
「貴女は今困っているわね」
「私が?何にかしら」
「その左手の薬指は」
「ああ、これね」
 それを言われてくすりと笑ってみせた女医だった。
「これのことなのね」
「結婚した。けれど夜のことではね」
「面白いことを言うわね。推理かしら」
「推理ではないわ」
 それは否定するのだった。
「事実を言っているのよ」
「強気ね。推理ではないのね」
「ええ、違うわ」
 こう言ってである。さらに言ってみせるのであった。
「貴女は夜に不満がある。けれど男の人は足りている」
「男は一人だけの主義なのよ」
 女医は自分の席に座ったまま沙耶香と向かい合っている。そうしてそのうえで左足を上にして組んでいる。スカートの奥がもう少しで見えそうになっている。男ならばそれだけで刺激されずにはいられない、そうした姿勢であった。
 その姿勢でだ。さらに話す女医だった。
「生憎だけれど」
「男はね」
「主人だけよ」
 こう言うのである。
「私は主人だけなのよ」
「浮気はしないのね」
「興味はないわ。男は一人だけしかね」
「純愛ね。ただそれでもよ」
「それでも?」
「男は一人でももう一つはどうかしら」 
 沙耶香の目が細められてきた。そしてその奥に赤い光が宿るのだった。琥珀の奥にルビーが輝く様な、そうした笑みであった。
「そちらは」
「あら、では私は今は」
「女性ね」
 顎に手を当てての言葉だった。
「それなのね」
「そうね。女性もいいわね」
「ふふふ、それじゃあ今からどうかしら」
 こう女医に問うのだった。
「今から私と」
「悪くはないわ。ただ」
 女医もまた目を細めさせてきた。そうしてそのうえで言葉を返してみせた。熟れたその肉体は沙耶香のそれと比べても遜色のないものである
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