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トワノクウ
トワノクウ
深夜 ふた心/せかいがおわる日
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まあ」

 くうの周りは一気に騒がしくなった。
 くうはこの騒がしさが好きだ。大好きな人たちに囲まれた、何の変哲もない青春の一ページ。

 そして最後に。

「おっはよー。あれ、みんないる。僕が最後かあ」
「おはようございます、潤君」
「はよ、中原」
「ん、おはよ。いやー、篠ノ女さんに勧められたオンセやってたら夜更かししちゃって」
「あんたもか! てか二人揃って何? ネトゲでパーティ組んでんの? リアルもバーチャルもいつでも一緒ってか」
「そ、そんなんじゃないって」
「ですです! そんな仲じゃないですっ」

 チャイムが鳴った。

 どうせすぐ教師が来ることもなかろうと、くうたちは歓談に興じていたが、意外と早く教室のドアが開いた。

「席に着いてください」

 静かで抑揚のない、くうにとってなじみがありすぎる声。
 くうはバッと前を向き、入ってきた教師を目撃した。





 ホームルーム終了後、くうは担任の周りに誰もいなくなったのを見計らって彼に声をかけた。

「鴇先生っ」

 鴇時はくうを見たが、その表情は全く変わらなかった。

 鴇時は感情の起伏が極端に少ない。高校時代の事故の後遺症としての情緒欠落だと、父母からは聞いている。

「こんにちは、くうちゃん」

 情感の伴わない声のあいさつ。これもいつも通り。

「もうっ。聞いてませんよ、うちの学校に赴任してくるなんて。鴇先生、いじわるです」
「篠ノ女にはちゃんと言ったよ?」

 鴇時は首を傾げた。

「さてはお父さんですね。新学期早々、娘をたばかるなんて許せませんっ」

 くうは紺がたまに娘をからかうことを知っていた。だから今回も、鴇時の異動先を追及しなかったのだ。まったく、ひどい父親だ。

「まあ、帰ったらお父さんをとっちめるので、よしとしましょう。今はそれより大事なことがありますから」

 くうは鴇時を上目遣いに見上げ、仲間たちに見せるのとはまた異なる親愛の笑顔で、告げた。



「おかえりなさい」



 贈られることばに、六合鴇時は、笑顔を返した。



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