忘却のレチタティーボ 6
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張ってる人の背中を押すのは、間違いじゃないよね?
「いつか、貴方達の想いが通じますように」
両手を重ねて目蓋を閉じ、クロスツェルさんに祈る。
こっそりと、アリア様にも。
「ありがとうございます」
クロスツェルさんは、にこっと笑って一礼してくれた。
うん。
とりあえず、人質の件は忘れておきます。
もう、会う機会もないでしょうし。
「室長、私、家に帰りますね」
「ああ。人目は避けていけよ」
「はい。失礼します!」
微笑む室長に頭を下げて、その場を離れる。
……はっ!?
そういえば、玄関扉! 開けっぱなし!
いやーっ! 急がなきゃ!!
家の扉は開いてましたが、屋内は特に問題ありませんでした。
盗人も出なかったみたいで、なによりです。
メアリ様は、失踪という形でそれから何年もずっと捜索されたけど、結局見つからず。家出だ誘拐だなんだといろんな噂が立てられて、職場のほうもかなり大変だった。
旧教会の敷地を含む再開発計画に関わっていたメアリ様の実家は、娘への失意から資金提供を打ち切り。
計画は延長を余儀なくされたらしい。
街議会の検討次第では、計画そのものが撤回される可能性もあるようで。
運が良いのか悪いのか……少なくとも私が生きてる間くらいは、いろんな思い出が詰まりすぎてる場所を失わずにいられそう。
白百合は、それからもずっと、旧教会のほうに捧げ続けた。
ほとんど習慣化してたからなあ。
やらないと落ち着かないっていう、あれ。
でも、一人でじゃないぞ。
毎日ではないけど。
終業時間が被ったりした日は、室長も一緒に白百合を捧げてくれてる。
献花する人数と本数が増えた分、教会の前はすんごい状態になってるよ。
いっそのこと、百合畑にしちゃったほうが良いかも。
なんて、軽い冗談のつもりで呟いたら、すっごく真面目な顔した室長が、『買うか?』って尋き返してきたんだけど。
畑にできそうな量の白百合を買うか? って話だよね?
旧教会の敷地を買うか? って話じゃないよね?
や、大量の白百合でも、それはそれでどうかと思うけど。
笑って誤魔化しておいたけど、室長なら土地でも買っちゃいそうだし。
今後は室長の前でこの手の話をしないように、気を付けようと思います。
頭が良い人は、たまに突飛な行動をするので、注意が必要です。
心臓に悪い!
そんな室長だけどね。
一度実家に付いて来てもらって。
お父さんお母さんお兄ちゃんの三人に、友達として紹介してみたんだ。
そしたら、めっっっちゃくちゃ驚かれた。
あんたに友人がいるとは思わなかった……、だってさ。
失礼な。
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