二十八話:歴史と日常
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い。苦しみや辛さに優劣は無い」
「そうなんかなー……」
二人で話しながら夕暮れの街を歩いていく。
難しそうな顔をしながら隣を歩くジークに歩幅を合わして歩いているのでかなりゆっくりになっているが俺も疲れているのでこのぐらいでちょうどいい。
「なぁ……リヒターはもし過去に戻れたら変えたい過去とかないん?」
「変えたい過去は幾らでもあるぞ。今日だって無限スピンをして吐きそうになるという黒歴史を作ったばかりだからな」
「……リヒターって単純やね」
「お前にだけは言われたくない」
どういう意味だとポカポカと俺を叩いてくるジークを宥めながら言葉を続ける。
「まあ、でも過去に戻りたいとは思わないな。受験とかテストとか受け直すは面倒だし」
「この上なく理由がショボいわー」
「ショボくて結構だ。それに―――大切な思い出を無くしたくないしな」
立ち止まってジークに笑いかける。長い黒髪が風になびき茜色の光を反射して綺麗だ。
どんなつまらない当たり前の日常だろうと大切な思い出だ。
それを高々ちょっとの失敗だけで変えたいというのは間違っている。
どんなに辛い過去であろうとそれだけではないのだから。それを忘れた人間が過去を変えることに執着するのだ。
「変えたい過去はある。でも、過去には今こうしてお前と歩いている『現在』ほどの価値は無い」
穏やかな微笑みを浮かべたままジークに手を差し出す。
ジークはポカンとした表情で自分の手と俺の手を交互に見ていたがやがてゆっくりと口を開く。
「やっぱり偽物…?」
「お前今晩の飯抜きな」
「あ、本物や!」
こいつにとっての俺の定義って一体……と悩んだ夕暮れ時だった。
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