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逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ 5
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「それでもまだ、その子を護りたいですか?」
「……どういう意味だ」
「護りたいと願うなら、貴方の封印をすべて解除します。その代わり、私の願いも一つだけ叶えて欲しい」

 旧教会の前に積まれた白百合の中から、一番新しい一輪を手に取り。
 香りを確かめるように、花弁を鼻先に寄せる。

「お前が悪魔と契約? 何の冗談だ」
「契約が嫌なら、約束でも構いません。内容が不釣り合いだというのなら、そうですね。一度だけ、貴方の求めに応じましょう。その時の私がいかなる状態であっても、私がこの世界に居る限り、必ず貴方の声の元に跳んでくる仕掛けを施しましょう。その時にも私が記憶を失ったままなら、貴方の力でこの約束を思い出させて。『記憶』の奏者・忘却のルグレット」
「……お前の願いは、記憶操作か」

 女性が、手に持った白百合を胸に抱いて、目蓋を伏せる。
 淡く薄い緑色の虹彩が、憂いに(かげ)った。

「私はこれから、ある場所へ行って、自らの記憶と体の時間を幼少の頃へと戻します。でも、それだけでは足りない。私だけでは、私の力を今以上には抑えられない。無駄だと分かってはいるけれど……別人になれば、可能性は生まれるから」
「何の?」
「私の、存在の消滅」

 男性の声が一瞬、戸惑った。

「……はっ……! 世界中を跳び回って悪魔を駆逐し、人間共を従えたかと思えば、今度は自殺願望か。お前の考えはさっぱり解らんな。だが、死ねば約束など果たしようがない。くだらない提案だな」
「それでも貴方は、この子を護る為の実体を取り戻せる」
「…………」

 ステラ……
 あれからも毎日、この教会に来ては、白百合を捧げて祈ってる。
 日が暮れるまでずっと愚痴を溢しながら、一人で膝を抱えて座ってる。
 来ないスイを待って、探して、泣いてる。
 学院卒業間近なのに、仕事探しも上手くいってないらしい。
 残っているのは、初めから能力不足だと諦めて足を向けなかった各役所と書蔵館くらいだ。
 全滅したら、確実に落ち込むだろうな。

「……分かった。約束しよう」

 男性の声を受けて、女性が白百合を空に掲げる。
 薄い緑色の大きな光の球が、女性の頭上にふわりと浮かんで。
 卵の殻みたいに、ぽろぽろと剥がれ落ちて消えた。
 中から現れたのは、まっすぐ長い銀髪で全身を覆って膝を抱えてる男性。

「貴方を封印前に戻します。目覚めなさい、ルグレット」

 男性の声の気配が消えて。
 代わりに、光の中から現れた男性が、氷色の目をゆっくりと開いた。
 髪をさらりと払い、女性の背後、数歩離れた場所へ降り立つ。

「手を」

 男性に振り向いた女性が、真っ白な長衣の袖を揺らしながら手を伸ばす。
 男性は黙って、女性の手に自らの手を
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