30.金で買えるか買えないか
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は早すぎて目で追えなかった。走って逃げても追いつかれるだろう。実際に見たことはないが、恐らく冒険者としてのレベルは推定4以上。逆立ちしても勝てる相手ではない。
何より――このオラリオで容赦なく同じ人間を斬り裂いたことから、この男は間違いなく犯罪者だ。
今までどんなに手痛い目に遭っても斬りつけられることなどなかった。
オラリオに限らず、殺傷行為は本来ご法度だ。バレれば罪に問われて指名手配されるからだ。
しかしその男はそれでも「気に入らない」という理由で相手を斬った。
宝を持っているこちらは殺されるかもしれない――そう思うと、体が震える。
男の手が伸びて、咄嗟に目をつぶる。
だが、どんなに待っても斬撃は感じないし殴られもしない。
ただ、頭にポンと手を置かれただけだった。
「ったく、盗むんならもっと上手く盗みやがれ。通りすがりにぶつかるようなヘマしてんじゃ半人前以下だ」
「………?う、奪わないんですか?私の荷物を……?」
「バカが。大泥棒には決して破っちゃならねぇ『掟』があるんだよ。どんなにイラついてても、それを破ったら山狗の誇りは地に堕ちる。例えば………『泣いてるヤツから奪っちゃならねぇ』、とかな」
はっとして目元をぬぐう。流れ出ていた一筋の涙が指の上で光を反射した。
かあっと顔が赤くなるのを感じる。弱みなど見せてはいけない筈なのに、見知らぬ男にこんな……
「ち、違います!これは……その、とにかく泣いてなんかいません!」
「チッ……ギャーギャーうるせぇな。とにかく、俺は忙しいんだよ!………ああ、ついでにひとつ聞いとくがよ。最近この辺で『クリスタルの巫女』を見なかったか?」
「え……オラリオに?巫女は神殿にいるのが普通なんじゃ……」
「知らねぇならいい。くそっ、喉が渇く………」
男は一方的に聞いておいて話を打ち切り、こちらの背を向ける。
「あ、待って!名前を聞かせ――」
背を向けた男を呼び止めようとして手を伸ばすが、次の瞬間男は消えていた。
勝手に現れて、勝手に助けて、そして勝手なまま去っていく。
話だけ聞いたらヒーローの筈なのに、どうしてか自分を助けたのはどう考えても悪党で。
「………大人はみんな勝手です」
不満げに、しかしどこか嬉しそうに、狼人族の『姿をした』少女はそう呟いた。
自分も、その「大泥棒」になってみたい――そんな小さな憧れを抱いて。
でも――やっぱり自分にはその力がないから、今日も彼女はいつもを繰り返す。
= =
傭兵、イクマ・ナジットの下に急報が届いたのは今より1週間以上前の事だった。
依頼内容に変更があるとの伝書鳩を受け取った彼は、一先ず旧知の神に巫女を預け、やむをえず中
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