30.金で買えるか買えないか
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世界最北端の地で二人親子が不器用なコミュニケーションを交わした、その翌日。
エタルニアの親子事情になど興味がない美の女神フレイヤは、バベルの頂点で一人唸っていた。
「あの、少年………あれはどういうことなの?」
彼女は人の魂を視る。特に平凡な人間の魂とは違う『色』をした魂には強い興味を惹かれ、別のファミリアの人間を勧誘して自分の元に引き入れたりもしている。
そんな彼女が悩んでいるのは、あの透明な魂をした兎のような少年――ではなく。
太極図のように光と闇が混ざり合った愉快な少年――でもなく。
つい最近オラリオに現れた、今までに見たこともないほどの輝きを放つ巫女――でもない。
「ティズ・オーリア……そういう名前なのね。あのカルディスラ大崩落の唯一の生き残り……でも、どういうことなの?」
彼には――魂が二つある。
フレイヤはそう結論付けざるを得なかった。
当たり前の話だが、魂とは一つの肉体に一つしか収まることが出来ない。
それが自然の摂理であるし、二つも入るほど人は心の器が大きくない。
時折一つの魂が何らかの理由で分離する――リングアベルもそれに近い――ことはあるが、それはあくまで数が増えただけて器の大きさは変わっていない。
ところが、ティズ・オーリアには人の魂とは別に、全く違う存在が感じられるのだ。
一つは今にも消え入りそうなほど淡く、でも確かな光を放つ健気な魂。
何時如何なる時もその輝きを失う事はない、一途な意志。本人の性格とは一致しないが、ある種の英雄の気質と言えるだろう。もしもこれが本当に消え入りそうな魂ならば是非貰っていきたいほどだ。
だが――その魂の弱った部分を守るように、「何か」がティズの魂に寄り添っている。
「あれは何なの……?正でも邪でもなく、ただ強い力だけが感じられる輝き……あれは人の魂でもなければ神の意志でもない。なのに元いた魂と強く惹かれあっている………」
隣り合い、輝きあい、助け合うような二つの光が混ざった輝き。
長き刻を生き続けたフレイヤでさえも知らないその謎の魂はティズの光と混ざり合い、神秘的な光彩を放っている。美の女神であるフレイヤを以てしても『美しい』と呼べるそれは、恋とも愛とも違う不思議な思いとなってフレイヤを満たしていく。
「私も知らない魂………それが、ティズ・オーリアの中にある………」
彼の事を、見届けなければいけない。
そんな漠然とした予感のようなものを感じる。
「この目で、確かめるべきかしら」
丁度「魔導書」をベルにプレゼントしようと画策していた事を思い出したフレイヤは、その魔導書をファミリアに任せるのを止めて自らの手に取った。
退屈と平凡に満たされた
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