第1話
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も事実であろう。
さて、見事な一本釣りを見せてくれた神様は
「そうかあ。やっぱり取っとけばよかったなあ」
といって悔しそうに頬を両手で延ばしていた。というのも、彼は昨年度の担任だった立野と仲が良かったのだが音楽の才能はこれっぽっちもなかったため、どちらかと言えば得意の美術を選択せざるを得なかったのだ。学生の本分と言えば勉学なのだから、仕方があるまい。
浮ついた教室の空気を切り裂くように戸が勢いよく開くと、ジャージ姿に健康サンダルを履いた、ガタイの良い教師が入ってきた。
「先生、おはようございます」
優大が顔をピシッとさせて、友人に話すのとは違った大人びた声であいさつをしているのは担任の矢代だ。
「おう、松本か。ちょうどいいからお前号令かけろ」
「ういっす。おい男ども寝てないで立てー」
彼を信頼するのが生徒だけではないという事実は、こうして『体育科の玉鋼』とも言われた頑固おやじによって裏付けられたのだ。
* *
退屈な朝礼が始まったが、まだあたりはざわついている。浩徳はというと、担任の中森が彼の名前を呼んだ時だけプログラム通りに手を上げるだけである。この単純な作業もいつかは機械が全部やってくれるだろう。もう少しの辛抱だと考えたが、その頃には俺もおっさんだな、とつぶやいて、片耳だけ外していたイヤホンをまた耳に押し込んだ。
「――あと、中間試験の結果が悪かった人は課題を渡すので、前に来てください」
無慈悲な中森の言葉に、クラスの中の一人が不満そうに声を上げた。
「はあ? 公開処刑かよ」
自分が勉強しなかったのが悪いのだから、仕方あるまい。
「はい、石田君前来てください。課題あげます」
「いらないよお……」
悲痛の叫びに教室には笑いが満ち溢れる。だが、次に中森の口から出た言葉は、そんなほのぼのとした朝の風景の流れを断ち切るものだった。
「さて皆さんも気づいているでしょうが、始業式の時から席が一つだけ余っていますね。そこに今日から、ある人が座ることになります」
おお、と教室のざわめきがどよめきへと変わる。
「一学期の途中ですが、今回このクラスに編入してくる青山美月さんです」
戸を開ける乾いた音の後に、その生徒は入ってきた。
「ありふれた一日を」という誰かさんの願いは、こうして打ち砕かれたのであった。
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