第1話
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た。
クラスでは二、三人が固まって思い思いの話をしている。部活や授業、食べ物、趣味、テレビ番組のあれやこれやが教室中を飛び交う中、窓際の席で浩徳は一人静かに音楽を聴いている。もちろん、クラスの中に話し相手がいないわけではない。クラスメートの皆が彼の朝の日課を分かっているから、誰も話しかけないだけなのだ。名誉のために、補足しておこう。
朝の八時半を知らせるチャイムが鳴り、朝礼の時間になった。生徒たちは皆自らの教室へと入っていく。ざわついていた廊下の人影もなくなり、こだまするのは教室から聞こえる話し声だけとなる。この教室にも担任の中森が入ってきた。
「日直は号令を宜しくお願いします」
浩徳はイヤホンの片方を外して、けだるそうに立ち上がった。
今日はありふれた一日でありますように。窓の外の低くて黒い雲をじっと見つめた。
* *
朝礼の前、ざわついている教室の戸がガラッと大きな音を立てて開いた。
「ういー。みんなおはよう」
西館は三階、高二―四の教室に入ってきたのは優大だった。真ん中よりも少し右の列の一番前の席に、雨に濡れたスポーツバッグを置く。彼が教室に入ってきたことをクラスの皆がすぐに気づいた。
「セーフ。ぎりぎり朝礼に間に合った」
机のフックにバッグをかけながら、優大は大きく息をはいて椅子に座った。
「松本はいつもギリギリだな」
クラスメートの男子が声をかける。
「毎日がスリル満点さ」
キザな俳優の真似をして優大はこれに応えた。
中身のない会話でも、優大は男女問わず同級生と話すのが好きだ。いつも遅刻しそうになるのも、自分の教室にも行かずに他のクラスで話し込むからである。顔の広さは学年一と言っても過言ではなく、「あの子と仲良くしたい」などといったスケベ心満載な男子にとっては『神様、仏様、松本様』などと言われる始末である。
そんな彼の特技と言えば、「なんでも話のネタにできる」ことだ。
例えば
「そういえば、杉山お前音楽取ってたよな。どんな感じ」
と、優大がたまたま前を通りかかったクラスメートに釣り糸を垂らせば
「ああ、立野ちゃんの話がマジで面白い」
としっかり食いついてくれる。会話の急発進にもかかわらずそれほどの躍度を感じさせない彼の話題選びは、話し相手の経歴や近況、性格などの要素を踏まえた、綿密な計算がなされたものだ。天賦の才とはこのことか、と人々が彼に純粋な尊敬のまなざしを向けるのもごくあたりまえなことである。なにより、目立つ者を排除しようとするちっぽけな民族意識がこの学園にはないこと
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