第1話
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に近づくにつれて傾斜もきつくなる非常にたちの悪い坂である。まさにやる気と体力を「もぎとる」坂であり、日本三大拷問坂に入るんじゃないかと鼻を高くして話す者もいる。
それでも、負けじと頑張って歩みを進めれば、ゾンビ映画にも出てきそうな荘厳さを持った門の奥に、白い肌が美しい五階建ての校舎が二つ構えているのが見える。彼らはこの月姫町最大の私立学園、月姫学園の高等部に通っている。熱心な教育ママが有難がって我が子を受験させるような学校である。菜園施設まで備えた広大な敷地(東京ドーム数個分あると言われている)の次に目立つ特徴と言えば、中高一貫校ではあるが高校からも生徒を募集していて、かつ学び舎とカリキュラムが区別されていることだろう。というのも、高等部からこの学園に通う生徒は中等部から入学した生徒と比べて未習範囲が広すぎるので、差を埋めるために倍近い勉強をこなさなくてはならない。したがって、それぞれのカリキュラムも異なるし、中学校から入った優大と高校から入った浩徳が同じ教室で机を並べることはないのだ。
ただし、豊かな人間性を育むためとして、部活動、運動会や文化祭などの学校行事は共通である。生徒たちは『懲役六年』だとか『禁固三年』などといった言葉を使って自らの所属を明らかにしているようである。
「じゃあ、ヒロ、放課後部活で」
バッグが肩からずり落ちそうになるのを直しながら、優大は浩徳に掌を見せて西館の方へ歩みを早める。
「じゃあな」
優大のバッグを横目で見て、浩徳は東館へ歩いていった。
* *
雨の日は廊下がよく賑わう。
屋外で活動する部活の朝練は軒並み中止となり、行き場を無くした生徒たちが安住の地を求めて学校中をさまよっているのだ。自らの教室で騒ぎ合うことに飽きれば、他の教室へ移動してまた騒ぎ、朝礼の時間が来るまでそれを繰り返す。上流から流れてくる流浪の民たちを上手にかわしながら、浩徳は東館の階段を上っていた。
浩徳のクラス、高二―Cの教室は東館の三階にある。東館は『禁固三年』の生徒たちが通っていて、百八十人前後の生徒が六クラスに割り振られ、それぞれアルファベットで区別がなされている。他の進学校にありがちな『特進クラス』は『学園の意向』から設定されていない。
「オッス、高山」
開きっ放しの教室のドアを軽く撫でて自分の席へとまっすぐ進む浩徳に、クラスメートの一人が声をかけた。
「おはよう」
浩徳はそっけなく返答する。さびしい会話か。いや、高校生の朝一番の会話などこんなものだろう。当の本人たちも「なんだこいつ、つれないやつだな」などと互いに憎み合ってはいない。浩徳は傘をきゅっきゅと丁寧に巻いて傘立てに差し
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