第5部 トリスタニアの休日
第6話 きつね狩り
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ると戻ってきて門の閂を外した。
アニエスは手綱を小姓に預け、つかつかと屋敷の中へと向かった。
暖炉のある居間に通されて暫くすると、寝巻き姿のリッシュモンが現れた。
「急報とな?高等法院長を叩き起こすからには、よほどの事件なのだろうな」
剣を下げたアニエスを見下した態度も隠さずに、リッシュモンは呟いた。
「女王陛下が、お消えになりました」
リッシュモンの眉がぴくん!と跳ねた。
「かどわかされたのか?」
「調査中です」
リッシュモンは首を傾げた。
「なるほど大事件だ。しかし、この前も似たような誘拐騒ぎがあったばかりではないか。またぞろアルビオンの陰謀かね?」
「調査中です」
「君たち軍人や警察は、その言葉が大好きだな。調査中!調査中!!しかし何も解決できん。揉め事はいつも法院に持ち込むのだから。当直の護衛は、どこの隊だね?」
「我ら、銃士隊でございます」
苦々しげに、リッシュモンはアニエスを睨んだ。
「君たちは無能を証明するために、新設されたのかね?」
皮肉たっぷりにリッシュモンは言い放った。
「汚名をすすぐべく、目下全力を挙げての捜査の最中であります」
「だから申し上げたのだ。剣や銃など、杖の前では子供のおもちゃに過ぎぬと!平民ばかり数だけ揃えても、一人のメイジの代わりにもならん!」
アニエスはじっと、リッシュモンを見つめた。
「戒厳令の許可を……、街道と港の封鎖許可をいただきたく存じます」
リッシュモンは杖を振る。
手元に飛んできたペンをとり、羊皮紙に何事か書き留めるとアニエスに手渡す。
「全力をあげて陛下を探し出せ!見つからぬ場合は、貴様ら銃士隊全員、法院の名にかけて縛り首だ!そう思え」
アニエスは退出しようとして、ドアの前で立ち止まる。
「なんだ?まだ何か用があるのか?」
「閣下は……」
低い、怒りを押し殺すような声でアニエスは言葉を絞り出す。
「なんだ?」
「二十年前の、あの事件に関わっておいでと仄聞いたしました」
記憶の糸を辿るように、リッシュモンは目を細める。
二十年前……、国を騒がせた『反乱』とその『弾圧』に思い当たる。
「ああ、それがどうした?」
「ダングルテールの虐殺は閣下が立件なさったとか」
「虐殺?人聞きの悪いことを言うな。アングル地方の平民どもは国家を転覆させる企てを行っていたのだぞ?あれは正当な鎮圧に任務だ。ともかく、昔話など後にしろ」
アニエスは退出していった。
リッシュモンはしばらく、閉まった扉を見つめていたが……。
それから羊皮紙とペンを再び取ると、目の色を変え、猛烈な勢いで何かをしたため始めた。
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