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逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ 4
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イの記憶だ。
 室長の声は、スイの声。

 スイとしての声が途切れて。
 男の人達に好き放題された後、放り出された人形みたいな私の心の中に、室長の声が語りかける。

「俺は、実体が無ければほとんど無力だ。君を助けることもできなかった。でも、君を壊されたくはない。頼む。俺と契約してくれ、ステラ」
「けい、や く?」
「忘れさせてやる。ここで起きた嫌なことを全部。その代わり、力だけでも君の傍に居させてくれ。これから先も、君が忘れ続けていられるように」
「……いい、よ。でも、そんな 悲しい、こえ やだ。笑っ て、ね?」
「……っ! ……ああ……。君の願いがそれなら、きっと、いつかは……」

 契約は成立した。
 出来事も痛みも忘れた私は、何故か酷く汚れている自分に驚いて、教会の敷地内にある井戸の水で身を浄める。
 野盗が現れたとか自警団に斬られたとか聞こえてくる夜の街を走り抜け。
 家に帰り着いた途端、お父さんとお母さんに、帰宅が遅いと怒鳴られた。
 服をボロボロにして、こんな時間まで、どこで遊び回っていたんだと。

 スイの遺体は、男の人達が食料にしたらしい。

 旧教会に留まった、その視界の持ち主は……



「……室、長……?」

 私の手から、メアリ様に渡された剣が消えてる。
 私を拘束してた腕が解けて、銀色の髪が地面に落ちた。
 横たわるのは、私を襲った男の人じゃない。

「……ス……イ?」

 私が。

 私が、スイを、この手で
 …………殺し た?

「…………あ……あぁあ……っ」

 私が
 私が友達を
 二回も 殺……っ!?

「ステ ラ……」
「!! スイ!?」

 生きてる!?
 生きてる!

 慌てて抱き起こして、しがみつく。

 もう、イヤ。
 もう嫌だ!
 失うのは嫌だ!

「君は 道に、迷ってる、だけ……。思い、出して。本当の、願い。本当の君 自身 を……」
「本当の、……私……?」

 将来の夢も欲しい物も無い私が、白百合に込めた神様への本当の祈り。
 自分の力では、どうしても、どうやっても叶えられなくて。
 いつしか、八つ当たりに変わってしまった想い。


『今日も明日も明後日も、皆が仲良くいられますように』


 ずっと感じていた空白の正体は、何もできない無力感。
 私なんかが居なくても、って疎外感。
 世界に置いて行かれそうな焦燥感。
 停滞してしまった自分への失望。
 何もかもを諦めた、……『私自身』?

「それで、も 特別 欲しい、なら 俺が……示し、て やる から……」
「スイ…… ……室長……っ」

 震える手が、私の頭を撫でる。

 冷たい。
 指先が冷たいよ。

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