第二百二十話 戸次川の戦いその八
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その対岸の織田の軍勢を見てだ、義久はここでも弟達に言った。
「わかっておるわ」
「ですな、我等の考えが」
「信忠殿も」
「慎重ですな」
「若し先陣が来ればな」
織田家の先陣がだ、義久はその武田と上杉の赤と黒の軍勢について話した。そしてまた言ったのであった。
「仕掛けるつもりじゃったがな」
「いつもの釣り野伏せを」
家久が言った。
「それをですな」
「そのつもりじゃったが」
しかし、というのだ。
「わかっておるわ」
「ですな、やはり」
「だからじゃ」
「ここは」
「こちらも攻められるわ」
「隙を見せれば夜討ちを」
歳久が言って来た、今度は。
「そうしますか」
「その手もあるが」
「それもですな」
「出来ぬ」
とても、というのだ。
「我等の釣り野伏せも既に見抜いておるのじゃ」
「では夜討ちも」
「もう既にな」
「わかっていて」
「攻めてもじゃ」
そうしてもというのだ。
「返り討ちにあうわ」
「こちらの方が」
「だからじゃ」
「では織田の本陣が来てから」
「その時になればな」
義久は今も織田家の軍勢を見ていた、今の時点で島津の軍勢よりも多い。その大軍を見つつ言うのだ。
「あちらが川を渡る」
「そして、ですな」
「その織田の大軍と」
「我等は正面から」
「戦うことになる」
これが義久の読みだった。
「力と力の戦じゃ」
「それならば、と言いたいですが」
義弘も今は苦い顔だった、そのうえで兄にさらに言った。
「例え薩摩隼人といえど」
「そうだ、とてもだ」
「勝てませぬな」
「こちらの策が防がれてはな」
「そうなりますな」
「だからじゃ」
「勝てぬと」
また問うた義弘だった。
「やはり」
「勝てぬ、しかしな」
「引き分けには持ち込みますな」
「それを狙う」
「では」
「ここは死ぬ気で攻めるぞ」
こう言ってだ、義久は今は動かず織田の軍勢の集結を待つしかなかった。そして織田の大軍が来るその間に。
川沿いに布陣した、戸次川にだ。そうしてだった。
織田の軍勢の前にいた、戦の場に着いた信忠はその島津の橙の旗が立ち並ぶ様を見てそのうえで言った。
「こちらが仕掛けぬのなら」
「はい、川に添ってですな」
「布陣してきましたな」
柴田と佐久間が信忠に言って来た。
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