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真田十勇士
巻ノ八 三好伊佐入道その十

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「何と、これは」
「どうしたのじゃ?」
 清海がその伊佐に問うた。
「よからぬ結果が出たのか」
「いえ、拙僧は幸村様のお力になり」
 そして、というのだ。
「天下に残る働きをすると」
「そう出たのか」
「まさか。拙僧の様な者が」
「よいことではないか」
「いえ、ですから拙僧の様な人として小さな者が天下に残るまでの働きをとは」
 その大柄な身体での言葉だ。
「その様なことになるとは」
「驚くのはそのことか」
「左様です、幸村様そしてこちらの方々と共に」
「ではわしもか」
「はい、兄上もです」
「天下に残る働きをするのか」
「それも永遠に語られるまでの」
 そこまでのというのだ。
「そう出ています」
「そうなのか」
「驚きました、そして拙僧も兄上もどの方も幸村様に死ぬまで共にいると」
「ほう、それはよいことじゃ」
「そうじゃな」
 由利と根津は伊佐のその話を聞いて嬉しそうに声をあげた。
「ではな」
「殿と死ぬ時も一緒ぞ」
「忠義を尽くせる、ではです」
 伊佐は意を決した顔で微笑んだ、そしてだった。
 その場で座ったまま姿勢をなおしてだ、幸村に深々と頭を下げて言った。
「是非。それがしを家臣の末席にお加え下さい」
「わかった、ではこれからは御主もな」
「幸村様の家臣ですね」
「頼むぞ、何かと」
「畏まりました」
 こうして伊佐も幸村の家臣となった。そのうえで彼は幸村達と共に老僧に対して挨拶をした。
「では住職殿、お世話になりました」
「時が来たな」
「今がその時の様です」
「そうじゃな、ではな」
「はい、天下に戻りです」
「真田様の下でじゃな」
「働きます」
 こう言うのだった。
「これより」
「御主なら出来る」
「天下において働くことが」
「出来る、では時々文でも送って参れ」
「はい、そうさせて頂きます」
「ではな、ここで御主の働きを聞くことを楽しみにしておるぞ」
「さすれば」 
 こう別れの言葉を交えさせてだった、そのうえで。
 伊佐は幸村達と共に山を降りた、そしてだった。
 伊佐がだ、幸村に自分達の行く先を問うた。
「殿、これから都に向かわれるのですね」
「そのつもりだが」
「では途中安土を通りますね」
「そうなるな、しかしもうあの街は」
「はい、城も燃えてしまい」
 信長が築いた豪華絢爛たる天主を持つ城だった、だがその城がついこの前本能寺の変での混乱の中燃えてしまったのだ。
「人も次第にです」
「離れていっておるのだな」
「左様です、都や大坂に流れています」
 その人がというのだ。
「そうなっています」
「そうだな、しかし」
「あの町を通りますね」
「そうなる」
 このことはもう当然のことだというのだ。
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