巻ノ八 三好伊佐入道その九
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「来られたのですか」
「うむ、御主に頼みがあってな」
「銭のことならありませんが」
「そのことではない、実はわしは仕官してな」
「そうですか、それはおめでとうございます」
「こちらの方にな」
清海は幸村を右手で指し示して話した。
「真田家のご次男幸村様じゃ」
「真田家といいますと信濃の」
「知っているな」
「はい、お若いですが文武両道の方だと」
「そうじゃ、非常に素晴らしい方でな」
「そうですな、素晴らしい目の方ですな」
伊佐は幸村の目を見て述べた。
「澄んでおられます、それに立ち居振る舞いも」
「見事であろう」
「隙がありませぬ、非常に腕が立ち」
そしてというのだ。
「人としてもです」
「隙がないというのじゃな」
「はい、しかも兄上が仕えられるとは」
伊佐は今度は兄を見つつ述べた。
「兄上は確かに般若湯、肉食、賭けごと、女人、騒動とされますが」
「やはり弟殿じゃ、わかっておるわ」
「全くじゃ」
穴山も海野も伊佐のその言葉にその通りと頷く。
「旅の途中でも食うわ飲むわでな」
「博打と女人、騒動はないが」
「それでもな」
「何かと揉めごとを起こす」
「困った者じゃ」
「悪い奴ではないがな」
「はい、しかし兄上は人を見られます」
伊佐は清海のそうした面も話した。
「これぞという方しか認められませぬ」
「うむ、わしも人の善悪はわかるつもりじゃ」
その清海も言う。
「人の性根とかもな」
「はい、その兄上が仕えられている」
「それ故にか」
「こちらの方は相当な方ですね、そして」
「そしてじゃな」
「この方は確かにです」
非常にというのだ。
「素晴らしき方です」
「それでじゃ、御主にもな」
「こちらの方にお仕えせよと」
「どうじゃ、悪い話ではないと思うが」
「そうですね、拙僧もこれまでは修行の日々を過ごしていましたが」
伊佐はその澄んだ目で幸村を見つつ兄に答えた。
「それもそろそろと思っておりました」
「ではよいな」
「いえ、少しお待ち下さい」
清海は弟が納得したと見て喜びの声をあげた、だがその伊佐は冷静そのものの声で兄に対してこう返した。
「少し見たいものがあります」
「見たいものとは何じゃ」
「幸村様を占わせて欲しいのです」
「そういえば御主占術もするな」
「はい、それでです」
その占術を使ってというのだ。
「占わせて下さい。宜しいでしょうか」
「うむ、よいぞ」
幸村は伊佐の願いに微笑んで答えた。
「では拙者のことを占ってもらおう」
「拙僧がお仕えさせてもらってよいのか」
幸村の心根はもうある程度だがわかっている、伊佐が言うのはその彼に自身が仕えていいのかどうかということだ。
それでだ、これからというのだ
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