巻ノ八 三好伊佐入道その七
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「しかしな」
「奇麗なものじゃな」
「全く荒れておらぬ」
本堂も庭も鐘もだ。
「奇麗なものじゃ」
「掃除も行き届いておるな」
根津は足元を見た、そこにはだ。
雑草が奇麗に抜かれていた。彼はその状況も見て言った。
「人はしかとおるか」
「その清海の弟殿か」
穴山はすぐにその者が掃除等をしているのかと思った。
「さて、その弟殿は何処か」
「人を探すか」
由利は寺の中にいる僧達を探そうと提案した。
「これだけ整っておる寺じゃ、人は一人ではないぞ」
「そうじゃな、本堂に行ってみるか」
望月の目はそのあまり大きくはないがやはり奇麗な本堂を見ていた。
「そこに誰かおられるやもな」
「そうじゃな、では行こうか」
由利が望月の言葉に頷いてだ、そしてだった。
一行は寺の本堂に向かった、そしてそのやはり閑散としているが奇麗に掃除された中に入るとだ。そこに一人の年老いた僧侶がいた。
僧侶は一行を見るとだ、すぐにこう言った。質素な黒と白の僧衣、その上に袈裟を着た枯れ木の様な老僧だ。
「これは珍しい、大勢のお客人とは」
「はい、実は」
幸村が僧侶に応えた。
「この寺に三好伊佐入道殿がおられると聞きましたが」
「伊佐に御用ですか」
「はい、実はそれがし真田幸村という者ござるが」
「おお、貴殿がですか」
幸村の名乗りを受けてだ、僧侶は少し声の調子を上げて言った。
「信濃でお若いながらも文武両道という」
「それがしのことご存知ですか」
「お名前は聞いております、それで如何なご用件でしょうか」
「それがし家臣を探して旅をしておるのですが」
「ではそちらの方々が」
「そうです、それがしの家臣達です」
幸村はこう僧侶に答えた。
「皆旅の途中で出会いです」
「家臣とされた方々ですな」
「左様です」
「それで伊佐はです」
清海が僧侶に大きな声で言った。
「拙僧の実の弟でして」
「ほう、そうなのですか」
「その縁で殿にもと」
「ふむ、伊佐を真田殿の家臣に迎えたいと」
「申し出た次第です」
「宜しいでしょうか」
幸村は礼儀正しく僧侶に申し出た。
「伊佐殿はこちらで修行されていると聞いています、ですが」
「はい、伊佐は確かにこちらの寺で修行しています」
その通りだとだ、僧侶も答えた。
「ただ。ここには修行の為、それが終われば」
「その時はですか」
「寺を降り世に出ると伊佐も申していまして」
「御坊もですか」
「その様にせよと言っております」
他ならぬ伊佐自身にというのだ。
「ですから時が来れば」
「その時は世に出て」
「左様です、そしてです」
「その修行で得た力で」
「世の為人の為に働くと二人で話しました」
そのことが決まめたというのだ、二人で。
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