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逆さの砂時計
忘却のレチタティーボ 2
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技術の確立で大量生産が可能になる前の時代に手書きで記された、前文明の遺産と言われている。

 つまり、傷を付けられたり盗まれたりすると、管理している側の関係者が全員大変なことになるので、閲覧には一定の条件が課されているのです。
 付き添いは、その条件の中の一つ。
 普通なら受付嬢が担当するんだけどね。
 東方支部は来客が多い上に、受付嬢が少ないから。
 たまには、こういうお役目代替もあるのさ。

「…………」

 読書専用の机まで誘導しつつ古書の棚も案内すると、クロスツェルさんは持てるだけの本を両腕に抱えて着席し、黙々とそれらを読み始めた。

 さて。
 私の役目は、お客様が貴重品を乱暴に扱わないよう、元の場所に戻すまで見張っていることなのですが。
 この人、乱暴な振る舞いとか絶対しなさそう。
 なんなら本を一冊一冊丁寧に掃除してから返してくれる気がする。
 要するに私、暇。

「ステラさん」
「はい?」

 あら、いやだ。
 顔に出てたか『ひま』の文字。

「いくつか、お尋ねしたいことがあるのですが」

 違った。

「なんなりと、ご質問ください。ただし、私が知らない、私に回答の権限が無いことに関しては、お答えできませんので。その点はご容赦ください」
「はい。では……」

 クロスツェルさんはどうやら、ここより北西の地域に伝わる民話や伝承を調べているらしい。
 紙に書き出された謎の歌詞について、何か知りませんか? とか、他にもいろんなことを尋かれた。
 答えはもちろん、お役に立てませんでした! ごめんなさーい!

 ……でも、話をしてて思ったんだけど。
 この人、学者じゃないのにすっごく面倒くさいコトしてるんだよね。
 好んで調べてる感じでもないのに、妙に必死だし。
 不思議な人だな。



「ありがとうございました」
「いえ。お役に立てず、申し訳ありませんでした」

 一通り目を通したところで、ちょうど閉館の合図が鳴り響いた。
 気付けば、お客様は館内に数人しか残っておられない様子。
 書類要請が来なかったのは良かったよ。
 クロスツェルさんの話って、失礼かもだけど、ちょっと面白かったから。

 旅かあ……。
 この街を出るなんて想像もしてなかったけど、そういうのも良いなあ。
 現実(おかね)的に無理だけどさ。

「それでは、失礼します」
「またのご来館をお待ちしております」

 総合入り口でクロスツェルさんを見送り。
 上司殿の言いつけ通り管理室で待機しようと、奥へ入ったら……
 え。
 あれ?
 いつの間に戻っておいででしたの?

「室ちょ…… !?」

 ちょ、何!?
 すっごく恐ろしい顔をした室長が、私の腕をいきな
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