10部分:第十章
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第十章
「松本沙耶香というのよ」
「松本さんですね」
彼女は上の名前で尋ねたのだった。
「それで宜しいですね」
「ええ、それでいいわ」
また微笑んで彼女に告げたのであった。
「それじゃあこっちにね」
「わかりました」
こうしてまた顔を引っ込める。すると教室の中から小声でこんな会話が聞こえてきたのであった。それは女の子同士の会話であった。
「松本さん?」
「そう、松本沙耶香さん」
下の名前まで呼んでの話だった。
「知ってるかしら」
「松本さんならお母さんのお友達にいるけれど」
一方の女の子の声が怪訝なものになっているのを聞いた沙耶香であった。
「ああ、そういえば」
「そういえば?」
「今日ね、学校行く時お母さんからの携帯のメールでね」
「連絡があったのね」
「ええ、あったわ」
こう相手に話しているのも聞こえた。
「それである人が会いに来るって言ってたけれど」
「ある人がね」
「その人かしら」
声からでも首を傾げさせたのがわかった。
「ひょっとしたら」
「じゃあその人じゃないの?」
女生徒もまた考える声で彼女に述べていた。沙耶香は教室の外にいながら中で行われるその会話を楽しく聞いているのであった。
「その人じゃ」
「そうかも。それで」
「ええ、それで?」
「どんな人なの?」
ここでこんなことも問う彼女だった。
「それでその松本さんって。女の人よね」
「ええ、凄く奇麗で背の高いね」
これは女生徒が勝手に言った言葉である。
「胸も大きくて黒いスーツとズボンを着ててね」
「黒なの」
「コートも黒でね。ただネクタイは赤かったわ」
「そんな外見なの」
「ええ、そうなの」
そうだというのだった。
「とにかくモデルみたいな奇麗な人で」
「そんなになの」
「とにかくその人が呼んでるから」
「わかったわ。じゃあ」
「行ってらっしゃい」
「ええ」
こうして一人の少女が沙耶香の前に出て来た。それは背が高く沙耶香と同じ位はあった。アーモンドを横にした様なはっきりとした奥二重の目に薄いが奇麗なカーブの眉に前から見れば小さめでそれでいて高さのある鼻と自身ありげな小さな唇を持っている。長い黒髪を後ろでポニーテールにしていてミニスカートから見える脚は紺のハイソックスで覆っている。かなり奇麗な、しかも大人びた雰囲気の顔立ちの少女だった。
スタイルはすらりとしている。彼女自体もモデルと見間違うばかりである。その彼女が沙耶香の前に出て来たのである。
「あの」
「松本沙耶香よ」
微笑んで名乗ってみせたのであった。
「貴女のお母様に仕事を依頼されてね」
「それで来られたんですか」
「時任忍さんね」
「はい、そうです」
今度はこの少女忍が応えた。
「私で
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