第十二話 大人or子ども
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、青色と思しきパーカーをジッパーで閉めることなく全開にした男が。
彼は腕を交差した状態で固まっていたが、やおら姿勢を解きシリカへと歩み寄った。
「大丈夫か?」
片手を腰におき、柔らかな表情を見せる。
シリカはそれを目に留めたと同時に視界がブレ始めた。
瞳に涙を溜め、頬を伝う雫は滴り落ちる。
それと一緒に、願いが口から零れた。
「お願いだよ……あたしを独りにしないでよ……ピナ……」
涙を流し泣き続けること数分。
シリカは落ち着いて来たところで、助けてくれた人にお礼も言っていないことに気づいた。
シリカを助けた男性プレイヤーは、なぜかこちらに背を向けて、何も言わずあぐらをかいて座り込んでいた。
なぜ立ち去らないのかはさておき、言うべきことを伝えようとする。
「あの……」
そう声をかけると、背を向けていたプレイヤーは体ごとこちらに振り向き、言った。
「落ち着いたか?」
「は、はい。あの、助けていただいてありがとうございました」
「気にすんな。それに、お前の友達、助けてやれなかったしな……」
先ほどのキザな発言とは対照的に、シリカから顔を逸らし謝罪する姿は、ギャップがあって少し反応に困ってしまう。
「いえ……自業自得、ですし」
自分で言っておきながら、自ら得た業にしてはむごすぎると思う。どうせなら、自分が死ぬべきだった。こんな喪失感を得るくらいならいっそーーー
「嬢ちゃん。変なこと考えんなよ」
段々とうつむいていくシリカにかけられた声はシリカを思考の闇から引き上げる。
ピンポイントでシリカの思考を読んだような言葉にハッとして男を見ると、こっちも明るくなりそうな笑みを浮かべていた。
「それに、絶望の淵にいるってわけでもねえしな」
「どういう、ことですか?」
この状況のどこが絶望ではないのだろうか。不審感や憤りといった感情の前に疑問が前に出る。
首をかしげるシリカに男は指をさした。
「ほら、そのアイテム。ちょいと確認してみ」
男が示したのはシリカの手にあるペールブルーの尾羽。単純に相棒の形見だと思っていたシリカは今更ながら羽が残る現象に疑問符を浮かべる。
通常は死んだらポリゴンとなって四散し後に何も残らないはずなのだが、これは一体どういうことか。
とりあえず指示されたように羽をダブルクリックすると、アイテム名が表示された。
《ピナの心》
「ピナ……」
「あぁ待った待ったぁ!泣くの後!気持ちは分かるがそれで話終わりじゃないから!」
アイテムに記された名に、涙を浮かべそうになるシリカを男は焦ったようになだめる。
その焦りようが少しおかしくて、泣きそうになるのを堪えられた。
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