第十二話 大人or子ども
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し、猿人のような武器を持たず、敵を撃退するほどの攻撃力も持たない。
ただシリカを護るため、身を呈して彼女を庇ったのだ。
その者は、ペールブルーに彩られた自身の体毛を散らしながら棍棒の一撃により吹き飛ばされる。
それを見ていることしかできなかったシリカは叫んだ。
「ピナっ!!」
硬直が解けたシリカは背後の敵など顧みず、一目散にピナへと駆け寄った。
小竜の身体をそっと抱き上げ、すぐに気づいた。HPバーがどの色も示していないことに。
あえてどの色かと言えば、無色。
この仮想世界に存在できない証拠であり、こことは違う世界に存在してしまう証拠。
「ピナっ、ピナ!」
シリカは小竜の名前を呼び続ける。
消えないで、私を、一人にしないで。
そう訴えかけるように。
しかし、ピナは「キュル……」と小さく、弱々しく鳴く。主人の身が失われていないことに安堵し、満足したように。
そしてその鳴き声がピナの遺言だった。
シリカの腕の中でポリゴンの欠片となったピナは自身の羽を一枚残して消えた。
シリカの予見した未来は確かに訪れることはなかった。
だが対象をピナにした同じような未来が訪れてしまった。
それを目の当たりにしたシリカの頭の中に浮かんだのは、AIでしかないピナがなぜ主人のシリカを助けることができたのか、主人の安全を身を呈して庇うなどありえないことだ、などという機械的な思考ではない。
当然、憤怒の感情で支配されていた。
判断を誤り自分で自分を窮地に追い込んだこと。
ピナの前でなにもできず固まっていることしかできなかったこと。
思い上がり、自分は何でもできると思っていたこと。
上げればキリがなくなってくる。ひとつひとつの行動や言動に自分への憤りが収まらない。
積み重なった彼女の失態と不幸はピナという大切な相棒を失う最大の不幸を迎えてしまったのだ。
シリカはその不幸の一因となった猿人を見やる。そして即座にウインドウを操作し新たな武器を手に持った。
無論、ピナを死に追いやった敵を殺すために。
殺す、絶対に殺す。何が何でも殺してやる。
己の身が焦がれることも頭の中には想像していない。ただどんなことがあっても敵を殺す。
そんな思考を手に《ドランクエイプ》へと斬りかかろうと地を蹴った、その瞬間、
不幸の頂点にいた彼女に最大の幸運をもたらすかのごとくーーー彼が現れた。
それは一瞬だった。
特攻を決め込んだシリカを優しく引き止め、反動で尻餅をついたと同時に、
彼のキザな発言がシリカに届くか否かの刹那、
シリカが尻餅をつき目を閉じて、慌てて目を開けた瞬間に、
三体の《ドランクエイプ》はポリゴンと化して消えていた。
目の前には
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