第二十三話
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「大丈夫なの? 」
そういって紫音は立ち上がると俺のすぐ側まで顔を近づける。
「いやいや見ない方がいいよ。っていうか触ったらうつるよ。誤って触ってしまったら汁が飛び散って紫音の顔にかかるよ! 大変だぜぇ」
両手で左眼を覆いながら俺は紫音を驚かすような口調で話す。実際見られたらやばいからね。必死なんだ。左眼が青く光ってるの見たら腰抜かすからな。
「そう……」
それ以上その事には触れないでいてくれた。
何か俺にとって聞いて欲しくない話題については彼女は必要以上には聞いてこない。長い付き合いだから俺の好みや苦手なものとかを全部把握しているのかもしれないなって思う。でも、俺自身は彼女の事をよく知っているようで実はよく知らないんだ。彼女は聞き上手ってやつで俺の話のツボを押さえるのがうまい。それで俺は何でもかんでも彼女にはペラペラと話してしまうんだ。まあその話を誰かに言ったりはしないから結構きわどい話でも平気でしていたりするんだけど。
でも、俺が紫音の事を聞いたりすると上っ面な所は何でも話してくれるんだけどある一線を越えた話になるとやんわりと拒否されたり、違う話へと知らない間に誘導されてしまうんだ。かれこれ10年以上の付き合いなんだけどなあ。
「なあ、漆多はどこに行ってるんだろう? 教室にはいないみたいだけど」
「ちょっと前まではいたんだけど、いつもとだいぶ違っていたよ。なんか凄く落ち込んでいたように思うけど……。どうしたんだろ? 柊君は何か知っているの」
「あ、いや何でもないよ。この時間に席に着いてないなんて珍しいなって思っただけ」
「へえ、そうなんだ」
紫音が何かを言おうとしたとき、ドアが開いて担任が入ってきた。
席を立っていた生徒達がザワザワと席へと戻っていく。
担任の佐藤先生が教壇に立つ。30歳半ばの独身教諭だ。主に数学を教えている。いつもだらっとした感じのジャケットを着ている。それなりに生徒思いで、まあまあ人気もあるようだ。 たまにジョークを飛ばしたりするんだけれど、今日は何か重苦しい雰囲気だ。
何かを重大な事を話そうとしているその雰囲気をみんな察知し、生徒達は固唾を飲んで次のセリフを待っている。
それはおそらく廃校舎の火災に関連する話なんだろう……。
「知っている者もいるかもしれないが……」
そういって佐藤先生は話し始めた。
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