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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
29.ジャイアント・キル
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………これは、まさしくカミイズミの――」

 だが、ブレイブの言葉はそこで止まった。
 イデアが――ほぼ本能的に、カウンターから繋がる『もう一撃』を繰り出そうとしていたからだ。
 防御力を注ぎ込んだ攻撃を弾かれたことで、今度こそブレイブに一撃を加える最大のチャンスが訪れる。それを見逃さない――否、逃してはならない。

「足りないのよ、お父様を認めさせるにはぁぁぁぁぁッ!!」

 烈火のように燃え盛る意志が、限界の一撃によって止まった筈の身体を前へと押し出す。
 ほんの一筋しか見えない希望という名の糸を手繰るために、イデアは自らの限界を突破した。

 もう彼女にとって、今ブレイブが何を言ったのかなど関係ない。
 ただ、今までに撃ち込んだどの一撃よりも強力な攻撃が必要だった。
 例えデスバレーとで防御力が低下していようが、それでも『聖騎士』の堅牢さが全て失われるわけではない。生半可な一撃には意味がない。
 無我夢中の突進の中でイデアは本能的に、父を越える一撃を欲した。

 目の前に立ち塞がる圧倒的な『格上』に立ち向かう勇気が、力となって剣に溜まる。
 精神力が吸い取られるような感覚と共に、イデアはその勇気の奔流に身を委ねるように『伊勢守』へありったけの力を注ぎ込んだ。それが、本当はアスタリスクの加護や恩恵(ファルナ)なしには再現する事すら困難を極める技だとは気付きもせず。

 それは敵が強大であればあるほど震える心が生み出す無限の勇気。
 どんな脅威にも立ち向かう不退転の意志の顕現。
 そして――『聖騎士』というジョブが勇気ある決断を行う者にこそ認められる所以。

 その一撃は、巨人を殺す英雄の一振り。
 煌々と輝くその剣こそ、誰もが渇望する未来への道をこじ開ける。

「これで……どうだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 奇しくもそれは、彼女の父ブレイブが『巨人殺し(ジャイアントキル)』と名付けた技と全く同じものだった。その小柄な体から溢れ出る信じられないほどの勇気と覚悟が、『伊勢守』の威力を爆発的に底上げしていく。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 技の域を超えて、既に魔法の域に突入した究極の絶技が、ブレイブの鎧を袈裟切りに吹き飛ばした。堅牢を誇る鉄壁の防御を突破した刃に、ブレイブの身体をよろめく。
 建国以来、何者にも退かず、誰にも倒されることのなかった最強の盾に、イデアの刃が傷をつけた。

「と……どい、た………」

 自らの刃が父に達した。
 己のやったことが信じきれないほどの、奇跡。
 だが、確かにその手に感触が残っていた。
 圧倒的な強者に立ち向かう必殺の一撃を放った感触が。

 やった、と思わず顔がほころんだイデアは――そのまま倒れ込んだ。
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